GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第1話 天体観測 ♂ジョゼ(ジョゼッフォ・クローチェ): ♂ジャン(ジャン・クローチェ): ♂ヒルシャー(ヴィクトル・ヒルシャー): ♂ロレンツォ(ロレンツォ・ピエリ): ♂医師: ♂男A: ♂マージ: ♂ルーイ: ♂男B: ♂男C: ♀ヘンリエッタ: ♀フェッロ: ♀トリエラ: ♀クラエス: ♀リコ: ---------------------------------------- ***イタリアの国立病院。ジョゼとジャンが廊下で話している。 ***灰皿には十数本の吸い殻がたまっている。 ジャン「ジョゼ、このままイタリア中の国立病院を回るつもりか。」 ジョゼ「ああ…いや。」 ジャン「俺はもう決めてきたぞ。家族に見捨てられたCFS症候群の全身マヒ患者だ。」 ジョゼ「兄さん…本当に子供じゃなきゃいけないのか?」 ジャン「「公社」の技術者はそう言っている… 体の改造も、薬による洗脳もなるべく若い方がいいらしい。」 ---------------------------------------- ***ICU観察室。医師マージ、ジョゼ、ジャンIN。 マージ「…ええと、社会福祉公社さんでしたっけ? 国も素晴らしい組織を作りましたね。身障者支援を積極的に打ち出すとは。」 ジャン「それでマージ先生、この病院に重症の少女がいると知ってやって来たのですが。」 マージ「ええ、まさしくあなたたちの助けを必要としています。」 ***窓からICUを見る。ベッドに、全身に包帯を巻き片足のない少女。 マージ「ご存じですか?先週ローマであった、一家殺害事件の生き残りですよ。 彼女は家族の死体の隣で一晩中暴行を受けていました。本人は、自殺を望んでいます。」 ---------------------------------------- ***静かな家の中、電話で話すヒルシャーとショットガンを構えた少女トリエラ。 ***足元には銃弾を受け倒れた男たち。 ヒルシャー「ジャンさん、カラーブリアのヒルシャーです。 五共和国派のアジトを制圧しましたが、アルバニア人の姿はありません。 おそらくすでにナポリまで移送されたのでしょう。 …ええ、まだ息のある人間から何か聞いてみます…。」 ---------------------------------------- ***ジャン、スコープ越しに窓を覗く。側にリコ。 ジャン「ジョゼ、奴らと接触する準備をしろ。 トリエラ・ヒルシャー組から連絡があった。 どうやらこっちが本命らしい。」 ジョゼ「了解。」 ジョゼM「数年前、僕と兄のジャンが転職した組織は名を"公益法人 社会福祉公社"と呼ぶ。」 ---------------------------------------- ***ジョゼとヴァイオリンケースを手にしたヘンリエッタ。 ジョゼ「行こう、ヘンリエッタ。」 ヘンリエッタ「はいっ。」 ジョゼ「アルバニア人を確保するまで動くなよ。」 ジョゼM「表向きは首相府主催の身障者支援事業だが、その実体は国中から集めた障害者に試験的に機械の体を与え。 「条件付け」と呼ばれる洗脳を施すことで政府の為の汚れた仕事を請け負う特殊な諜報機関だった。」 ---------------------------------------- ***ジャンとリコ。リコ、スナイパーライフルを構え。 ジャン「リコ、ブラインドの影に集中しろ。」 リコ「はい。」 ---------------------------------------- ***ブラインドのかかった部屋に男が5人。武装している。 男A「カラーブリアが襲われたらしい。」 男B「何ですって!?」 男A「何者かが、アルバニア人を追ってきている。」 男B「それじゃあ、ここにも…。」 男A「やって来るかもな。 カラーブリアに現れたのは子供連れの男らしいが…。 そういえばこんな噂を聞いたことがある。 最近、子供の殺し屋を使う政府組織があると…。」 ---------------------------------------- ***突然、部屋の扉がノックされる。 ***男の一人(ルーイ)がドアスコープを覗く。 男A「ルーイ、何か見えるか?」 ***ジョゼとヘンリエッタが見える。 ルーイ「ええと…背広の男と女の子です。」 男A「女の子…?…開けろ。」 ***ルーイが外に出て、ドアを閉める。 ジョゼ「こんにちは。」 ルーイ「何の用だ。」 ジョゼ「私は、リベロ=イターリア誌の記者をしている者です。」 ルーイ「記者が何の用だ?」 ジョゼ「こちらにコステロ社の、スカロ氏がいらっしゃると聞いてぜひ取材を…」 ルーイ「そんな奴、ここにはいない。ちゃんと住所調べたのかよ。」 ジョゼ「ええと、確かにこの建物だと聞いて…」 ルーイ「おい…。知らないって言ってるだろうが…」 ジョゼ「しかし…」 ***ルーイ、ジャンの胸ぐらを掴む。 ルーイ「いい加減にしねえと痛い目に…。」 ***ヘンリエッタ、ヴァイオリンケースからサブマシンガンを取り出し発射。 ***男C飛び出す。 男C「ルーイ!!……」 ***ヘンリエッタの銃で男C倒れる。 ***立てこもる男Aとホッヘ。 男A「ホッヘ!!手榴弾だ!!」 ***ホッヘ、手榴弾のピンを抜く。 ホッヘ「……!!」 ***ジャン、それを確認しリコに指示。 ジャン「今だ、撃て。」 ***窓からの狙撃でホッヘ絶命。続いて男Aも狙撃で死亡。 ---------------------------------------- ***制圧後。部屋にはジョゼとヘンリエッタのみ。 ジョゼ「やってくれたな…。」 ヘンリエッタ「あ…あの…。」 ***ジョゼ、フェッロに無線。 ジョゼ「フェッロ、失敗した。 何人か連れて応援に来てくれ。」 フェッロ「わかりました。」 ジョゼ「ヘンリエッタ、どうして暴れた?」 ヘンリエッタ「あの…ジョゼさんに乱暴する人は許せなくて…。」 ジョゼ「さっき言った事を忘れたのかい?」 ヘンリエッタ「いえ。」 ジョゼ「腕を撃たれたな…大丈夫か?」 ヘンリエッタ「平気です。」 ***フェッロ到着。 フェッロ「ジョゼさん。」 ジョゼ「フェッロ、アルバニア人を探せ。 彼らの反応からすると、この建物に隠しているだろう。」 フェッロ「了解です。」 フェッロ「アルフォンソ、アマデオ、屋上から階下へ。 ジョルジョ、建物の周囲を警戒しろ。」 ---------------------------------------- ***建物の外。 ヘンリエッタ「ジョゼさん…。」 ジョゼ「ん?傷が痛みだしたか?」 ヘンリエッタ「私は…ジョゼさんのお役に立ちたかったんです…。」 ジョゼ「……帰ったらすぐに、先生に傷を診てもらいなさい。」 ---------------------------------------- ***公社、手術室。ジョゼと医師、窓越しに会話。 ジョゼ「先生、ヘンリエッタの具合はどうですか?」 医師「ライフル弾が、皮膚と人工筋を削っただけだ。 腕ごと交換する必要もないだろう。 これなら彼女に使う「薬」も少量で済むぞ。」 ジョゼ「それは助かります。」 医師「勘違いするなよ?それでも治療のたびに「薬」が必要なのに変わりはない。 ここの子供たちは、ただでさえ洗脳(条件付け)に大量の「薬」を使っている。 加えて修理のたびに鎮静剤として使っていれば…、いずれは依存症や記憶障害を起こすだろう。」 ジョゼ「そうですか…。」 医師「義体はいくらでも直せるが、その分脳や生身の部分への負担は大きいからな…。 それで、今日はいったいどうしたんだ? 命令無視して暴れたっていうじゃないか。」 ジョゼ「彼女は僕の為に、作った死体を数えています…。」 医師「……救われない話だ。 なあジョゼ…お前がこの子を可愛がるのはわかるが、もっと条件付けを徹底すべきなんじゃないか? 殺しのための義体を、普通の女の子として扱っても不幸なだけだ。」 ---------------------------------------- ***公社、作戦二課課長室。ジャンとジョゼと作戦二課長ロレンツォ。 ジャン「ジョゼ、ヘンリエッタに条件付けを徹底すべきだ。 猟犬には首輪をつける必要がある。」 ジョゼ「それには反対だ、兄さん。 薬の多用は寿命を縮める。」 ジャン「使えなくなったら新しい患者を用意すればいい。 お前は道具に愛着を持ちすぎだ。」 ロレンツォ「まあ待てジャン、少々問題はあるがヘンリエッタは優秀だ。簡単に使いつぶすのも惜しい。 とにかく今回は無事アルバニア人の身柄は押さえたのだ。今回の件は大目に見よう。」 ジャン「はい。」 ロレンツォ「ジョゼ、個々の義体の扱いは担当官に一任している。 ヘンリエッタが最低限の投薬で使えるというなら、試してみろ。 ただし、大きなミスは許されない。 今回のことはきつくしかっておくのだな。」 ジョゼ「はい…。」 ジョゼM「公社へ連れて来たばかりのヘンリエッタは無口な子だった。 元々、連続殺人事件の被害者だったのだから無理もない。 一家六人が惨殺され 彼女一人が生き残った。 国立病院で会った彼女は身も心もぼろぼろで。僕はこの子をパートナーに選んだ。 善行を積みたかったのか。同情したのか。 とにかく彼女を救いたかった。」 ---------------------------------------- ***【回想始まり】 ***公社建物屋上。ラフな格好のジョゼとスナイパーライフルを持ったヘンリエッタ。 ジョゼ「いいかい?仕事をするにはたくさんの事を覚えなくてはいけない。 良い仕事は全て単純な作業の積み重ねだ。 メモを作るから、毎日勉強するように。」 ジョゼM「公社に連れて来られた子供は、体を改造されると同時に“条件付け”をほどこされる。 彼女にとって幸いだったのは、たいてい条件付けの結果“以前”の記憶が消されることだ。」 ジョゼ「狙撃は600mまでなら頭、それ以上は体の中心線を狙う…。」 ***ヘンリエッタ、無反応。 ジョゼ「………。」 ジョゼM「そして僕は彼女と会話する努力を始めた。」 ジョゼ「上を見てごらん。」 ヘンリエッタ「え?」 ジョゼ「あの雲の隣、ぼんやりと光る点が見えるかい?」 ヘンリエッタ「……何ですか?」 ジョゼ「空に光る物があるとすれば何だろう?ひょっとして妖精かもしれないな。」 ***ヘンリエッタ、はにかむ。 ヘンリエッタ「飛行機ですか?」 ジョゼ「いい答えだね。 昔、戦争中に飛行機と見間違えてびっくりした人もいる。 だがもし今が夜だとしたら、どう考えるだろう。」 ***ジョゼ、ライフルからスコープを外しヘンリエッタに覗かせる。 ヘンリエッタ「……。星…?」 ジョゼ「そう、地球の内側を回る金星なんだ。 ああ、太陽は見ないように…。」 ***ジョゼ、ライフルを構えて空を見る。 ジョゼ「さすがにこのライフルじゃ、金星人の頭を狙うのは無理だろうな。」 ヘンリエッタ「ジョゼさんて…、何でも知っているんですね…。」 ***【回想終わり】 ---------------------------------------- ***公社、治療室。夢での回想から目を覚ますヘンリエッタ。 ヘンリエッタ「……」 ***ヘンリエッタ、慌ててガバッと体を起こす。 医師「起きたかね?」 ***ヘンリエッタ、ポロポロと涙が溢れ困惑。 ヘンリエッタ「……?」 医師「右腕の皮膚が定着するまで、入浴は控えるように。 どうした、怖い夢でも見たのか?」 ヘンリエッタ「ええと…良く分かりません。涙が勝手に…。」 ---------------------------------------- ***公社、外廊。トリエラとヘンリエッタ、並んで歩く。 トリエラ「ヘンリエッタ、リコから聞いたぞ。 大暴れしたんだって?」 ヘンリエッタ「うー…うん。ちょっとかっとなっちゃって。 トリエラ、どうしよう。ジョゼさんに嫌われちゃったら…。」 トリエラ「そんな事ないって」 ヘンリエッタ「でも…。」 トリエラ「よし、私とクラエスの部屋で一杯やろう!」 ヘンリエッタ「いっぱい?」 トリエラ「紅茶とケーキには、幸せの魔法がかかっているの。」 ---------------------------------------- ***公社、トリエラとクラエスの部屋。 ***ヘンリエッタとトリエラはテーブル、クラエスはベッドで寝転がっている。 トリエラ「結局ヘンリエッタは手柄を立てたかったわけだ。」 ヘンリエッタ「ええと…。そうかも…。」 トリエラ「そんなにまでしてあの人を喜ばせたいの?」 クラエス「でもトリエラ、私たちにできることはそれくらいしかないんじゃない? とは言うものの…もし私なら、そんなに献身されてもうっとうしいだけだけれどね。」 ***ヘンリエッタ、紅茶に砂糖を入れる。 トリエラ「あれ?ヘンリエッタってそんなに甘党だったっけ」 ヘンリエッタ「あ、うん…最近あまり甘く感じなくてね。 それでついお砂糖を足しちゃうの。」 トリエラ「よし、今日からヘンリエッタを砂糖女と呼ぶ。」 ヘンリエッタ「うう。」 クラエス「いいんじゃない?『若者よ、若いうちに愉しめ』よ。」 トリエラ「なにそれ、『誰の言葉』?」 クラエス「『私の言葉』さ。」 ---------------------------------------- ***公社、ヘンリエッタとリコの部屋。ヘンリエッタ一人。 ***戦闘で腕の部分が血に汚れたシャツを見つめている。 ***ジョゼ、ドア越しに声。 ジョゼ「ヘンリエッタ、いるかい?」 ヘンリエッタ「はいっ。」 ***ヘンリエッタ、シャツを脇に置く。 ヘンリエッタ「ど、どうぞ。」 ***ジョゼ、IN。 ジョゼ「腕の調子はどうだ?」 ヘンリエッタ「はい…まだ少し重い気がしますけど。」 ジョゼ「じゃあこれから本館の屋上に来てくれないか。」 ***ヘンリエッタ、直立になる。 ヘンリエッタ「わかりました。」 ジョゼ「寒いからこれを着てくるといい。」 ***ジョゼ、ヘンリエッタに紙袋を渡す。 ヘンリエッタ「これを…頂いてよろしいのですか?」 ジョゼ「上で待ってるよ。」 ***ジョゼ、OUT。 ***ヘンリエッタ、紙袋からコートを取り出し、抱きしめる。 ----------------------------------------------- ***公社、屋上。夜。 ***ジョゼの隣には天体望遠鏡。 ジョゼ「いらっしゃい。早くおいで。」 ヘンリエッタ「天体望遠鏡(テレスコーピオ)ですか…」 ジョゼ「すごいだろ。 いつかライフルスコープなんかじゃなく、星を観せたかったんだ。」 ***ヘンリエッタ、満面の笑み。 ヘンリエッタ「私、星を観るの初めてです。 突然どうしちゃったんですか?」 ジョゼ「あ……。………。」 ***沈黙あり。 ジョゼ「…ああ、うん、こんな夜空だ、星を観るのもいいだろう? 今日の仕事のごほうびさ。」 ヘンリエッタ「きょ…今日のこと…怒らないのですか?」 ジョゼ「怒ってほしいのかい?」 ***ジョゼ、天体望遠鏡覗く。 ジョゼ「おいで、オリオンがきれいだ。」 ***ヘンリエッタ、天体望遠鏡覗く。 ジョゼ「猟師オリオンは恋人アルテミスに誤って射ころされてしまう。 哀しみにくれた女神アルテミスは、自分が夜空を駆ける時、いつでも彼に会えるようにとオリオンを星座に加えてもらったんだ。 ………。 哀しい話だ。」 ***ヘンリエッタ、天体望遠鏡から目を外す。 ヘンリエッタ「ジョゼさん…。」 ジョゼ「ん?」 ヘンリエッタ「ジョゼさんて、何でも知っているんですね。」 ジョゼ「そうとも。」 La fine