GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第3話 THE SNOW WHITE ♂ヒルシャー(ヴィクトル・ヒルシャー): ♂ジョゼ(ジョゼッフォ・クローチェ): ♂マリオ(マリオ・ボッシ): ♂ジャコモ(ジャコモッティ): ♂マフィアA: ♀トリエラ: ♀ヘンリエッタ: ♀リコ: ---------------------------------------- ***ナポリの路地裏。昼。 ***ヒルシャーとトリエラがマフィアの男ジャコモッティを追い詰める。 ***トリエラに向かってくるジャコモッティ。 ジャコモッティ「うらぁ!!」 ***トリエラ、躱し殴り飛ばす。 トリエラ「んっ!!」 ジャコモ「ぐっ…!!」 ***トリエラ、続いて投げ、拘束。 ジャコモ「がぁっ!!」 ヒルシャー「カモッラのジャコモッティだな?」 ジャコモ「(荒い息AD)」 ヒルシャー「安心しろ。ちょっと組織の話を聞きたいだけだ。」 ***ジャコモ、懐から拳銃を抜こうとする。 ジャコモ「……!!」 ヒルシャー「!」 トリエラ「!」 ***トリエラ、気づきジャコモの肩を撃ち抜く。 ヒルシャー「トリエラっ!!話を聞くだけだと言ったはずだ!」 トリエラ「あなたが危険だと判断したからです。」 ヒルシャー「君ならもっと穏便にできるだろう!?いいか、私の許可なく発砲するんじゃない。」 トリエラ「………。」 ***トリエラ、悲しそうな笑顔。 トリエラ「だったら…。さっさと私を薬漬けにしたらどうですか?」 ***ヒルシャー、トリエラに平手を振り上げる。 ヒルシャー「トリエラっ!!」 トリエラ「………!」 ***ヒルシャー、できず手を下ろす。 ヒルシャー「……ジャコモッティを車に乗せなさい。」 ---------------------------------------- ***公社、廊下。 ***ジョとヒルシャーゼが話しながら歩いている。 ジョゼ「それはトリエラの言う通りだよヒルシャー。「条件付け」を強化しないのならきちんと指導する責任がある。もっとも僕が言える話じゃないけどな…。」 ヒルシャー「彼女に無理な投薬はしません。それで困ってるんです。」 ジョゼ「お互い向かない仕事についてしまったようだ。」 ヒルシャー「トリエラと上手くやるにはどうすれば…。」 ジョゼ「生真面目なドイツ人が無理をしても仕方ないさ。彼女はかしこいから…、男の下心には敏感だぞ。」 ---------------------------------------- ***公社、トリエラの部屋。 ***ヘンリエッタとトリエラ。ヘンリエッタは棚に並ぶテディベアを触り、トリエラは机に突っ伏している。 ヘンリエッタ「……ドービー、グランビー、スニージー、スリービー、ハッピー、バーシェフル…。もうすぐ小人が七人になるね。」 トリエラ「こいつらももうそんなに揃ったか…。」 ヘンリエッタ「いいなあ…、私もほしい。」 トリエラ「ジョゼさんに頼みな。もうすぐクリスマスだし一発で買ってくれるさ。」 ヘンリエッタ「トリエラは嬉しくないの?ヒルシャーさんの贈り物。」 トリエラ「私の好みもおかまいなしに…、同じものばかり贈られてもね。贈り物だけしておけば保護者ヅラできると思っているのかしら…。他にもやることがあるでしょうに…。」 ヘンリエッタ「具合が悪そうだけど……大丈夫?」 トリエラ「ああ…実は昨日から生理が重くてさ…、今余裕ないんだ。」 ヘンリエッタ「でもここのところずっときてなかったんじゃ……。」 トリエラ「完全に生理不順。おなかがいたい…。」 ヘンリエッタ「市販のお薬は飲めないんだよね?」 トリエラ「白状して気が緩んだらどんどん痛くなってきた…。」 ***トリエラ、苦笑い。 トリエラ「でもこれも生きている実感だから我慢する。フフフ…。」 ***ヘンリエッタ、にこやかに。 ヘンリエッタ「その意気その意気っ…。私は子宮もとられちゃったから…」 トリエラ「う。」 ヘンリエッタ「トリエラと代わってあげたいくらいだよ。」 トリエラ「そうだったね…。ごめん。」 ***部屋にリコ入ってくる。口元からは血が流れているが笑顔。 リコ「見つけた。トリエラ、ヒルシャーさんが呼んでる。」 ヘンリエッタ「リコ!それどうしたの!?」 リコ「え?えへへ…さっきジャンさんにしかられただけだよ?」 ヘンリエッタ「ほら、血をふかなきゃダメじゃない…。」 リコ「一課のオフィスで待つように言ってた。」 ***トリエラ、かわらず突っ伏しながら。 トリエラM「ヘンリエッタはジョゼの妹そのものだし。リコはジャンの仕事の道具。それじゃあ私には何を演じて欲しいのだろう。すべて条件付けで決めてくれたら楽なのに…。」 ---------------------------------------- ***公社、廊下。 ***ヒルシャーとトリエラ、少し離れて歩く。 トリエラM「ああ…。……おなかいたい。」 トリエラ「今日はどこへ?」 ヒルシャー「カポティキーノ空港だ。引越ししたナポリマフィアの元幹部を捜しに行く。」 トリエラ「わかりました。」 ヒルシャー「捜すのはマリオ・ボッシという男だ。数年前マフィアを抜けてヨーロッパを転々としていたが、最近ナポリに戻って来ているらしい。」 トリエラ「そのマリオを見つけて殺すんですね?」 ヒルシャー「いや、公社に連れて行って保護する。」 トリエラ「保護?」 ヒルシャー「カモッラ首領の裁判に、内情を知る証人が必要なんだ。マリオには免責を条件に裁判で証言してもらう。もちろんマフィアはそれを絶対阻止したい。つまり…」 トリエラ「放っておけばマリオは彼らに消される?」 ヒルシャー「そのとおり。彼を無事保護して裁判まで身柄を拘束する。それで…」 トリエラ「どうしてこの仕事を一課ではなく私たちが?」 ヒルシャー「自分とマリオは旧い付き合いでね…。この街で彼の立ち寄りそうな所をいくつか知ってる。上手くやれば公社でクリスマスを祝えるよ。」 トリエラ「その手の言葉は大抵実現しないものです…」 ヒルシャー「トリエラ。どうかしたのか?」 トリエラ「え?」 ヒルシャー「顔色が悪いぞ。」 トリエラ「いえ…。何でもありません。」 ---------------------------------------- ***ナポリ路地裏、バールアブルッチの前。 ***マリオがあたりを見回してから店のドアをノックする。ドア越しの会話。 (ヒルシャー)「誰だ?」 マリオ「覚えてるか?ベスビオのマリオだ。」 (ヒルシャー)「…入りな。」 ***マリオIN。同時にトリエラに取り押さえられる。 ヒルシャー「久しぶりだなマリオ。」 ---------------------------------------- ***ナポリ路地裏の近くの店。 ***テラス席で会話する三人。トリエラの左手とマリオの右手に鎖長めの手錠。 ヒルシャー「どうしてすぐナポリ検察に出頭しなかったんだ?ここら辺ではカモッラの刺客や買収された地元警察が大勢お前を捜してるっていうのに。」 マリオ「裁判には出てやるよ。だがまだこの街でやることがあるんでな。」 ヒルシャー「悪いがこのまま公社へ連れて行かせてもらうよ。」 マリオ「ちっ。冷たい野郎だ…。…ところでヒルシャーよ。どうしてこのお嬢ちゃんと手錠で繋がれなきゃならんのだ。」 ヒルシャー「義体の事は昔話しただろ?引きずって逃げようとは思わないことだ。」 マリオ「…小便したくなったらどうするんだよ…。」 ---------------------------------------- ***店のトイレ。 トリエラ「ど……、どうして私も一緒に入らなくちゃいけないんですか。」 ヒルシャー「入口で見張ってるから誰も入ってこないさ。」 マリオ「しょうがねえだろ…。ここでもらせってのかよ。ほら早く来い。」 ヒルシャー「油断するなよ。」 ***マリオ、トイレの個室にIN。トリエラ、ドアの外。手錠はドアの隙間に。 トリエラ「……早くして。」 マリオ「そうせかすな。まったく公社の奴らはせっかちな人間ばかりだ。」 ***マリオ、隠し持っていたピンで手錠を外しながら会話。 トリエラ「公社の事はヒルシャーから?」 マリオ「まあな。」 トリエラ「彼、マフィアに友達がいるようには見えないけど。」 マリオ「昔ユーロポールの駆け出し捜査官がアムステルダムでカモッラの幹部を捕まえた。」 トリエラ「欧州刑事警察機構(ユーロ・ポール)?」 マリオ「当時のカモッラは闇タバコ経済が立ち行かなくなって、アムステルダム経由で合衆国に子供を「輸出」していた。その時の捜査官がヒルシャーで、見逃してもらった幹部が俺ってわけだ。以来俺はカモッラを抜けて追われる身。ヒルシャーはユーロポールをクビになって公社に拾われた。」 トリエラ「じゃあ…。私が公社に来る前の事は何か聞いてる?」 マリオ「いや…。…で、お前とヒルシャーは上手くやってるのか?」 トリエラ「”兄妹”だからって仲睦まじいとは限らないわ…。」 ***水の流れる音。トリエラ、貧血気味で息をつく。 トリエラ「ふーーーっ。」 ***マリオから声がしなくなる。 トリエラ「………。」 ***トリエラ、ノック。 トリエラ「マリオ?」 ***トリエラ、踏み込む。個室には誰もいない。 ***上を見ると壁を乗り越え隣の個室に抜けるマリオの姿。 トリエラ「!!」 マリオ「(アクションAD)!」 トリエラ「マリオ!!」 ***マリオ、窓から脱出。 ***トリエラ、追いかけようとするが手錠をトイレの手すりに繋がれており機会を逸する。 トリエラ「くそっ!!」 ---------------------------------------- ***路地裏。 ***警戒しながら歩くマリオ。近くに車が急停車する。 マリオ「!!」 ***中から男が出てきて周りを囲まれる。 マフィアA「こんな人気のない所で不用心だな。まあ、お前のほうからナポリに戻って来てくれて助かったよ。」 マリオ「お前らと遊ぶのにはもう飽きたんでな。」 マフィアA「話は後でゆっくり聞いてやる。」 マリオ「俺を連れて行くなら急いだほうがいいぞ。そろそろここに…」 ***トリエラ、全速力で駆け寄ってくる。 マリオ「おっかない奴が来るからな。」 ***マフィア、気づき銃で応戦。 ***トリエラ、一瞬で2名射殺。手段を冷静に腕で受け止める。 ***続いてナイフで襲い来る男を蹴り飛ばす。男吹き飛び、マリオの側の壁に激突。 マリオ「!!」 ***制圧。トリエラ、静かに深く息をつく。 トリエラ「はーーーっ。弾は当たらなかった?」 マリオ「あ…ああ。」 トリエラ「あなったってつくずく手錠が好きみたいね。今度逃げたら容赦なくぶっぱなすわよ。」 マリオ「お前ひどい顔色してるぞ…。撃たれたんじゃないのか?」 トリエラ「……生理痛。誰かさんが随分と走らせてくれたせい。」 マリオ「だ、大丈夫か?」 トリエラ「いや……。……うん。実は結構しんどいんだ…。」 ***トリエラ、血の滴る腕を掲げて弱々しい笑顔。 トリエラ「でも安心して。ほら、緑の血なんか出さないから。」 ---------------------------------------- ***少し事件経過。トリエラ、しゃがんでいる。 トリエラ「ねえマリオ。ここまでしてナポリでやりたい事って何?」 マリオ「俺の娘に会いに来た。」 トリエラ「娘?」 マリオ「今までも毎年クリスマスプレゼントを贈ってきたが…。マフィアから足を洗って以来まだ一度も会っていない。だが今年は直接届けるって娘と約束したんだ。」 トリエラ「子供には父親が必要……か。」 ***トリエラ、立ち上がる。 トリエラ「ヒルシャーには逃げられたって言っておくわ。」 マリオ「ああ…。お前、自分の親がどこに居るか知ってるのか?」 トリエラ「さあね…。アムステルダムで保護されたとしか聞いてないから。あなたの話を聞くと、案外どこかのスナッフ・ムービーにでも出演してたのかもね。」 マリオ「…すまねえ。許してくれなんてとても言えねえが…。」 トリエラ「あなたが関わってたとは限らないじゃない…。せいぜい娘さんには優しくね…。」 マリオ「お前も…。ヒルシャーと仲良くな。」 トリエラ「あのねえ…。私は別にヒルシャーが特別嫌いってわけじゃないんだからね。」 マリオ「ほお?」 ***トリエラ、笑顔で仁王立ち。 トリエラ「私が嫌いなのは。あなたたちのような身勝手な大人全般なのさ。」 ***物陰に隠れ聞いていたヒルシャー。空を仰ぐ。 ---------------------------------------- ***少し時間経過。トリエラ、ヒルシャーの元に戻る。 ヒルシャー「マリオは逃げおおせたか…。」 トリエラ「すみません…。」 ヒルシャー「あいつはああ見えてしたたかだからな。なに、どうせ一課からの頼まれ事だ。えーっと…そうだな。今度からマリオの為に大人用おむつでも持参しようか。」 トリエラ「……。」 ヒルシャー「ああそうだ。せっかくナポリまで来たんだ。買い物でもしていこうか。」 トリエラ「は?」 ヒルシャー「考えてみればお前にはパリッとした服しか与えてないから、例えば可愛い服とか靴を…」 トリエラM「とっさに私はこう答える。」 トリエラ「わたしは…。タイを締める時の気が引き締まった感じが好きだし。革靴が石畳をコツコツ叩く音も気に入ってます。」 トリエラM「それを聞いた彼は少し寂しそうに笑う。」 ヒルシャー「そうか…。」 トリエラM「何故かその日だけは、彼のご機嫌取りに腹が立たなかった。」 ヒルシャー「いつも何をプレゼントしていいかわからなくてな…。」 トリエラM「まあ、年に一度そんな日があってもいいだろう。」 トリエラ「実はくまには今まで七人の小人の名前をつけていて…」 ---------------------------------------- ***時間経過、クリスマス。 トリエラM「余談だが。クリスマスの日、私にはプレゼントが二つ届いた。一つはヒルシャーから。もう一つはマリオ・ボッシからだ。こうして七人揃うはずの小人は八人になってしまった。やっぱり他の何かをねだっておけば良かったよ。」 La Fine