GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第5話 エルザ・デ・シーカの死(後編) ♂フェルミ(ピエトロ・フェルミ): ♂ジャン(ジャン・クローチェ): ♂ジョゼ(ジョゼッフォ・クローチェ): ♂ロレンツォ(ロレンツォ・ピエリ): ♂チンピラA: ♀ヘンリエッタ: ♀トリエラ: ♀エレノラ(エレノラ・ガブリエリ): ♀フェッロ: ---------------------------------------- ***公社中庭。 ***犬を撫でるロレンツォ。ジャンが近づく。 ジャン「課長。」 ロレンツォ「ジョゼに休暇をやったか。」 ジャン「はい。ヘンリエッタを連れてシチリアへ。」 ロレンツォ「それでいい。       エルザの件が落ちつくまで公社の外にいてもらう。       あいつは純粋だから。       真相を知ったらひどく傷つくだろう。」 ジャン「あいかわらず課長はジョゼに甘い。」 ロレンツォ「ああいう奴ほど周囲が守らねばならんのだ。」 ---------------------------------------- ***公社、フェルミのオフィス。 ***トリエラ、フェルミと電話で会話。 フェルミ「何だって?      で、そいつは今どこに居るんだ?」 トリエラ「シチリアよ。」 フェルミ「シチリア? どうしてそんな所へ行ったんだよ。」 トリエラ「そんな事知らないわ。      急に休暇をもらって出かけちゃったんだから。      あと…。一応言っとくけど、ここの電話盗聴されてるかもよ。」 フェルミ「別にやましいことをしているわけじゃない。      ありがとう。」 ---------------------------------------- ***シチリア島、ジョゼの別荘。 ***玄関前でジョゼ、ヘンリエッタ、フェッロ。 フェッロ「私は港のホテルにおります。      何かあればすぐに駆けつけますので。」       ジョゼ「そんなに心配する必要はないよフェッロ。     おとなしくしてれば僕らが何者かなんてわかりっこない。」 フェッロ「エルザの件があります。      十分警戒して頂かないと。      ヘンリエッタ、ジョゼさんの事をしっかりお守りするように。」       ヘンリエッタ「はいっ。」 ***ジョゼ、ヘンリエッタ、建物にIN。 ヘンリエッタ「わあ…、素敵なお家ですね。」 ジョゼ「元々は父の持ち物だったんだ。     今はオフシーズンだけど、昔はよく家族と夏を過ごしたよ。     テラスへ出てごらん。」 ***テラスから広大な地中海を臨む。 ヘンリエッタ「(感激の息AD)。きれい…。」 ジョゼ「夏のシチリアは最高だ。来年また来よう。     ヘンリエッタ、持って来たケースと腰のSIGをよこしなさい。」 ヘンリエッタ「え?」 ***ヘンリエッタ、ヴァイオリン型のガンケースを両手で強く抱える。 ヘンリエッタ「駄目です!これはジョゼさんをお守りするのに絶対必要です!」 ジョゼ「ここにいるのは年越し休暇に来たただの新聞記者とその姪なんだよ。     普通の女の子はそんなもの抱えてちゃいけない。」 ---------------------------------------- ***シチリア近く。海岸沿いの道路。 ***フェルミとエレノラ、ジョゼらを追っての車中。 フェルミ「なあエレノラ。      シチリア島には車のまま入れるのか?」 ***エレノラ、手帳を見ながら。 エレノラ「ええ。レッジョ・ディ・カラブリアからフェリーが出ていますから。」 フェルミ「お前がマメなおかげで俺はいつも手が抜ける。」 エレノラ「今通ってるこの道は、古代ローマ軍がギリシア人のシチリア都市を攻撃する際使った道です。」 フェルミ「おいおい。俺の下着の色までそこに書いてないだろうな…。」 ---------------------------------------- ***シチリア。階段道。徒歩で。 フェルミ「まったく…、ここは仕事で来るところじゃないね。」 エレノラ「本当に…。      『ここにいると自分が世界の中心』だと感じますね…。」 フェルミ「観光ガイドに転職したらどうだ?」 エレノラ「(苦笑AD)」 ***ジョゼの別荘前に到着。 フェルミ「本当にここに居るんだろうな…。」 ***フェルミ、ドアノック。 ***ヘンリエッタ、警戒した顔で出てくる。 ヘンリエッタ「………どちら様ですか?」 フェルミ「おっと撃たないでくれよ。社会福祉公社の者だ。」 ヘンリエッタ「本当ですか?」 フェルミ「作戦一課のピエトロ=フェルミとエレノラ=ガブリエリだ。      ここのことはトリエラに教えてもらったんだよ。」 ***ジョゼが出てくる。 ジョゼ「作戦一課だって?     休暇中の僕らに何の用だい?」 フェルミ「うちの課でエルザ事件の調査を担当していてね。      わざわざ話を聞きに来たんだ。      中に入れてもらえないか?」 ジョゼ「ああ…、上がってくれ。」 ***フェルミ、エレノラ、IN。 ジョゼ「ああ、この家では武器の持ち込みは禁止だ。     ここで預かるよ。」 フェルミ「何だって?」 ジョゼ「言ったろ?休暇中だって。     ガンオイルの臭いはなしだ。」 ***フェルミ、銃を差し出しながら。 フェルミ「まさか俺の大事なナニまで取り上げる気じゃないだろうな。」 ジョゼ「その下品な口は置いてってもらおう。」 ***四人、ソファに腰掛け。 ジョゼ「エルザの一件は一応解決したんじゃなかったのか?」 フェルミ「まあそういうことになってるんだが…。      どうもすっきりしないんでな。課長に内緒でここに来たんだ。」 エレノラ「フェルミさん!私たち課長の指示で来たんじゃ…。」 フェルミ「課長にはナポリのおばあちゃんが倒れたって言っておいた。      だから仕事半分ってとこだな。」 ジョゼ「どうして僕らを?」 フェルミ「トリエラから……。      もっとフラテッロの関係が知りたければあんたらに会えって言われたんだ。」 ジョゼ「そうか…。     ヘンリエッタ…、向こうで夕食を作ってくれないか。」 ヘンリエッタ「はい。」 ***ヘンリエッタ、キッチンへ。 フェルミ「あの子は家政婦の仕事もするのか。」 ジョゼ「あー…。家で練習しているみたいだけど…。     味は多分期待できない。」 フェルミ/エレノラ「え?」 フェルミ「エレノラ…」 エレノラ「はいはい。監督してきます!」 ***エレノラ、キッチンへ。 フェルミ「あの子もあんたの事が大好きなようだ。」 ジョゼ「まあね。」 フェルミ「やはりラウーロや他の男たちのように薬で尊敬を得たのか。」 ジョゼ「義体を使う為には「条件付け」が必要だ。     ヘンリエッタも例外じゃない。     でも僕は大量の投薬で忠誠心をあおりやしないし、愛情を強要したりもしない。」 フェルミ「そんなに違うものなのか?      程度が低けりゃ許される問題じゃないだろう。」 ジョゼ「それは認めるよ。     あの子を公社や自分のために使っているのはわかってる。     わかっているんだ……。」 ---------------------------------------- ***キッチン。ヘンリエッタとエレノラ、並んで立つ。 エレノラ「さて、何を作るつもりなの?」 ヘンリエッタ「えっと…トマトスープのパスタを……。」 エレノラ「……。      それだけ?」 ヘンリエッタ「はい…。」 エレノラ「よし。メニューをもっと増やそう。」 ヘンリエッタ「でも…、レシピがないと私何も…。」 ***エレノラ、手帳を取り出しめくり始める。 エレノラ「えーっと…、たしかどこかに料理記事のメモが……。      あった。パスタはツナをトマトスープで煮込んで……。      あとはイカ、アサリ、ムール貝の海の幸マリネに野菜のカポナータ。      …いいよね?」 ヘンリエッタ「すごいっ。魔法の手帳ですねっ!」 エレノラ「物覚えが悪いだけ。      こうでもしないとすぐに公社をクビになっちゃうわ。      いい?『良い仕事ってのは全て…』」 ヘンリエッタ「『単純な作業の堅実な積み重ね』!!」 エレノラ「あら…。どこで聞いたの?」 ヘンリエッタ「あれ?どこで聞いたのかな…。        ど忘れしちゃいました。」 エレノラ「まあいいわ。      よしっ、食材が足りないから買ってこようか。」 ---------------------------------------- ***外、階段道を歩く二人。 ヘンリエッタ「ガブリエリさんが来て下さって助かりました。        ジョゼさんにお料理出すなんて私初めてで…。」 エレノラ「あなたは本当に彼が好きなのね…。      それってどんな気持ちなの?その感情も公社に強要されてるかもって自覚はある?」 ***ヘンリエッタ、微笑んで。 ヘンリエッタ「私…。今幸せだからそれでも構わないんですが…。        でも公社の命令は「やらなきゃ」って感じ。        ジョゼさんの為にすることは「したい」って感じなんです。」 エレノラ(M)「これは…。完全に恋する乙女だな。」 ヘンリエッタ「ガブリエリさんは、フェルミさんの恋人なんですよね?」 エレノラ「あのねえ。      普通は男女が一緒に仕事しているだけで恋人ってことにはならないの。」 ヘンリエッタ「でもガブリエリさん背が高くてモデルみたいで、お似合いですよ。」 エレノラ「このおしゃまさんが…。      あの人にはもっと鋭い女が似合うのよ。」 ヘンリエッタ「違いますよ。」 エレノラ「違わないの!」 ***振り返ったヘンリエッタの至近を原付が通り過ぎる。 ヘンリエッタ「きゃっ!!」 ***ヘンリエッタ、バランスを崩し尻もち。 エレノラ「大丈夫!?」 ヘンリエッタ「はい…。」 エレノラ「あなたたちって集中してないととたんに鈍いのね。」 ヘンリエッタ「すみません。」 エレノラ「あら?あなたのハンドバッグは?」 ヘンリエッタ「あ!! ***ヘンリエッタ、駆け出し。 ヘンリエッタ「取り返します!!」 エレノラ「ヘンリエッタ!」 ---------------------------------------- ***ヘンリエッタ、ひったくり犯を追う。 ***ビルの4階分はある段を飛び降り、5mのビルの間を飛び渡る。 ---------------------------------------- ***ひったくり犯、原付を止め後ろを確認する。 ***ヘンリエッタ、息を切らしながら出てくる。 ヘンリエッタ「返して下さい!」 ***バイクの進路に立ち。 ヘンリエッタ「私のバッグ返して下さい!!」 チンピラA「なんだお前…。失せろ。」 ***ヘンリエッタ、男の胸ぐらを掴み引きずり倒す。 チンピラA「(引っ張られAD)。があっ!!」 ***エレノラ、車で到着。叫ぶ。 エレノラ「やめなさい!」 ヘンリエッタ「!!」 エレノラ「タオルミナ警察よ!!その子の荷物を出しなさい!」 チンピラA「ハッ!そんなもん知らねえな…」 エレノラ「そう。とぼけるの?素直に返せば見逃してあげるつもりだったんだけど…。      私がその原付のトランクを調べてもいいのよ?      マリファナの臭いがぷんぷんするわね。」 ***チンピラ、バッグを返し去る。 ヘンリエッタ「ありがとうございました。」 エレノラ「そんなに大切なバッグだったの?」 ヘンリエッタ「中にジョゼさんから頂いたカメラが入っていたんです…。」 エレノラ「そう…。」 ヘンリエッタ「それよりガブリエリさん。あの手帳ってもしかして……。」 エレノラ「へっへー。魔法の手帳さっ。」 ***二人、海を眺め。 ヘンリエッタ「さっきのガブリエリさん、最高に鋭い女でしたよ!」 エレノラ「さっきのヘンリエッタは最高におっかなかったわ。」 ---------------------------------------- ***時間経過、食後。ジョゼ、フェルミ、酒を飲んでいる。 フェルミ「ジョゼはエルザの死を不審に思わないのか?」 ジョゼ「そういう君はどんな所が気になるんだ?」 フェルミ「そうだな…。      強いて言えば、すっきりしすぎている点だ。」 ジョゼ「なんだ?陰謀史観か?」 フェルミ「優秀な男と義体があっさり殺され…あっさり犯人が割れた…。      どう思う?」 ジョゼ「義体がいくら身体能力や感覚を強化されてるといっても、集中していないとそれらは発揮されないんだ。     あの二人は夜の公園で待ち伏せにあったんだろ?」 フェルミ「でも御主人と一緒の時は危険に敏感だってジャンが言ってたぜ。      現に先日リコに会った時はまるでアイギスの楯だった。」 ジョゼ「襲撃に反応したが間に合わずにそれこそラウーロの「楯」になったんじゃないのか?」 フェルミ「気に入らねえ…」 ジョゼ「ん?」 フェルミ「どうしてお前らはすぐ義体が主人をかばったで納得するんだよ…。      事実かもしれないがそんなの間違ってるだろ。」 ***フェルミ、少し昂揚。 フェルミ「俺は最初義体なんて気色悪いと思ってた。      体の8割が炭素フレームや炭素繊維、人工筋だなんてな。      でも結局トリエラもヘンリエッタもただの思春期の子供だ。      料理のヘタクソなただのガキだよ。      ヘンリエッタがお前をかばって死んでも仕方ないって言うのか?」 ---------------------------------------- ***テラスで夜景を楽しむヘンリエッタ、エレノラ。 ヘンリエッタ「お料理喜んでもらえましたね。」 エレノラ「(苦笑AD)。その為に色々と苦労させられたわ…。      ねえヘンリエッタ。もうさっきみたいに暴走しちゃ駄目よ?      女の子なんだから暴力ばっかり振るってちゃ駄目。      分かった?」 ***ヘンリエッタ、泣き顔になり顔を手で覆う。 ヘンリエッタ「……。ガブリエリさんもですか…。        ガブリエリさんも……、私を「女の子」にしようとするんですね。」 エレノラ「だって本当に…」 ヘンリエッタ「ここに来た時、ジョゼさんは私の銃を取り上げたんです…。        「普通の女の子はこんなもの持ってない」って…。        …確かにそうです。でも…」 ***ヘンリエッタ、顔を上げて。 ヘンリエッタ「体が機会の女の子って普通ですか?        すごい力持ちで…、素手で人を殺せるんです…。        赤い血は出るけれどすぐに痛みなんか消えちゃうんです。 ***ヘンリエッタ、涙を流し。 ヘンリエッタ「義体の私がジョゼさんの役に立つには…、普通の女の子じゃだめなんですよ…」 エレノラ「違うわ!彼はあなたのことを大切に思ってるもの!      怖い顔して9ミリ口径の銃を振り回されるより、あなたに笑っていて欲しいと思ってるもの!」 ヘンリエッタ「ガブリエリさん…。        わたし…、エルザが何故死んだかわかります。        ジョゼさん達を呼んで…。…あと私の銃を持って来てください…。」 ---------------------------------------- ***近くの広場に集まった四人。 ジョゼ「ヘンリエッタ、一体どうしたんだ。」 ヘンリエッタ「銃を貸して下さい。」 エレノラ「駄目っ!説明が先よ!」 ***ヘンリエッタ、フェルミに向き直る。 ヘンリエッタ「フェルミさん…。        エルザはラウーロさんの忠実な義体だったんですよね?」 フェルミ「ああ…。感情は希薄だがラウーロを慕っていたらしい。」 ヘンリエッタ「ジョゼさん…。        ラウーロさんはエルザに優しかったですか?」 ジョゼ「いや。仕事以外はまともに取り合わなかった。」 ***ヘンリエッタ、エレノラから銃を受け取る。 ヘンリエッタ「じゃあ…、多分真相はこうでしょう。        もし誰かを好きで好きでしょうがなくなって…。        それでも永遠に満たされないとわかってしまったら。        私なら…」 ***ヘンリエッタ、宙に一発撃つアクション。 ヘンリエッタ「相手を殺して。それから…」 ***ヘンリエッタ、素早く右目に銃口を当てる。トリガーに指。 ヘンリエッタ「こうします。」 ジョゼ「ヘンリエッタ!!」 フェルミ「!!」 ***フェルミ、ヘンリエッタの銃を奪う。 ***ジョゼ、ヘンリエッタにタックルし倒す。 ***ヘンリエッタ、至って平静。少し笑い。 ヘンリエッタ「大丈夫…撃ちませんよ。        あなたに…、こんなに良くしてもらってる私が自殺するわけないじゃないですか。」 エレノラ「…本当に?」 ***エレノラ、銃から抜いておいた弾を見せる。 エレノラ「どこまで本気かわからなかったわよ。」 ---------------------------------------- ***少し時間経過。 ***ヘンリエッタ、就寝。ダイニングで飲む三人。 エレノラ「二発の銃弾の秘密はこういうことだったんですね…。」 フェルミ「だとしたら、主人の為に戦って死ぬよりひどい話だ…。」 ジョゼ「この事をドラーギ課長に報告するのか?」 フェルミ「馬鹿言うな。      仮に事実だったとしても、二課が証拠を全部処分してるだろう。      そうなりゃただの仮説だ。」 エレノラ「それにしてもヘンリエッタは恐い子ですね。」 フェルミ「ありゃ無意識の脅迫だな。      『愛してくれなきゃあなたを撃ちます』。      そう言ってるようなもんだろう。」 エレノラ「昼間はあんなに無邪気だったのに。」 フェルミ「無邪気だから始末におえんのさ。」 ***フェルミ、上着から写真立てを出す。 フェルミ「ああそうだ。      空っぽのエルザの部屋で一つだけ見つけたものがある。      ラウーロの写真だ。」 エレノラ「結局、彼女がもらったのは名前と写真だけですか。」 フェルミ「ここまで思われたら相手するのも大変だ…。      普通の神経じゃつとまらんね。」 ジョゼ「いつも彼女の尊敬に値する人間でいなきゃいけない。     でもそれくらいはやらないとな。」 フェルミ「俺はもう義体はこりごりだ。      なあ?エレノラ…」 ジョゼ「いや、君たち二人ならいい義体担当官になれると思うよ。」 フェルミ「ほう。じゃあ一課をクビになったら拾ってくれ。」 エレノラ「何言ってるんですかフェルミさん!」 La Fine.