GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第51話 灯(ともしび) ♂ヒルシャー(ヴィクトル・ヒルシャー=ヴィクトル・ハルトマン): ♀トリエラ: ♀ロベルタ(ロベルタ・グエルフィ): ---------------------------------------- ***ナポリのホテルの一室。 ***真っ暗。トリエラが燭台の蝋燭にマッチで火を点ける。 トリエラ「………」 ***そこに部屋の電気がつく。 ヒルシャー「どうした?       暗くなんかして。」 ---------------------------------------- ヒルシャー「ナポリにはもう数日滞在することになった。       待機しながら次の指示を待とう。」 トリエラ「はい。」 ***ヒルシャー、大きなドーム型のパンを出す。 ヒルシャー「これはパネットーネといって、イタリアのクリスマス菓子だよ。」 トリエラ「(食べ)・・・。」 ヒルシャー「どうだ。甘いだろ?」 トリエラ「?」 ***トリエラ、味を感じない。 トリエラ「あ…ハイ。そうですね…。」 ヒルシャー「去年もナポリに来たのを覚えてるか?」  トリエラ「は…はい。      マリオ・ボッシを捕まえた時ですね。」 ***ヒルシャー、ワインを注ぎトリエラに。 ***自分にもワインを注ぐ。 ヒルシャー「来年はどうかな。       またここに来たりしてな。」 トリエラ「………。      ヒルシャーさんはドイツに帰らないんですか?      クリスマスは家族と過ごすものなのに。」 ヒルシャー「そしたら、トリエラが一人になるじゃないか。」 ***当然のように言うヒルシャーに、少し顔を赤くするトリエラ。 トリエラ「分かりません。      どうしてそんなに真面目なんですか!      どうして私を…」 ヒルシャー(M)「『私はあの子に希望を託したの』」 ヒルシャー「生き方を縛られるのは義体だけじゃない。       みんな何かに追われて生きるんだ。       …僕は過去に縛られたんだよ。」 トリエラ(M)「過去に縛られるってどういうこと?        昔、彼に何があったの?」 ***ヒルシャーから毎年贈られるテディベアの一体クラウディウスを抱えて眠るトリエラ。 ***ヒルシャー、サイドボードに手紙を残し部屋を出る。 ---------------------------------------- ***翌朝。 ***トリエラ、目を覚ます。 ***目元にはうっすら涙の跡がある。 トリエラ「ん……。      おはようクラウディウス。      また夢で泣いたよ。きっとお母さんの夢だね…。」 ***トリエラ、手紙に気づく。 ヒルシャー(M)「―――おはようトリエラ。         僕はこれから人と会ってくる。         戻るまでホテルで待機しててくれ。」 トリエラ「(ベッドに倒れこみ)ふぅ。      ………。      一人にしないって言ったのに。」 ---------------------------------------- ***ナポリ市街地。 ***リストランテで食事をするヒルシャーと、旧知の女性検事ロベルタ。 ヒルシャー「まさか君がナポリ検察に異動するとは思わなかったよ。」 ロベルタ「ええ…私も驚いたのだけど。      私は前の事件で世間に目立ちすぎたから…。      しばらくこちらでおとなしくしてろということね。」 ヒルシャー「ローマからそう遠くない。       たまに会いに来るよ…ロベルタ。」 ロベルタ「ええ。      でも皮肉な話ね…。      法曹家とマフィアは本来宿敵なのに、私がこの街で守られるなんて。      南のマフィアと北の五共和国派も仇敵同士。      五共和国派と戦う女検事はここでは一目置かれる存在みたい。」 ヒルシャー「毒をもって毒を制すだな。」 ロベルタ「今のうちに政治と駆け引きを勉強するわ。」 ヒルシャー「前向きで安心した。」 ロベルタ「ヴィクトルのおかげよ。」 ---------------------------------------- ***食事後。港を歩く二人。 ロベルタ「ナポリには仕事で?」 ヒルシャー「ああ。」 ロベルタ「クリスマスなのに休まないの?      家族に会うとか…。      私も人のこと言えないけど。」 ヒルシャー「………。       悩みを聞いてもらっていいかな。」 ロベルタ「ええ。」 ヒルシャー「例えばロウソク。       いずれ尽きるならば激しく燃えることこそ本望と死に急ぐ彼に、周りは何と言うべきなんだろう。」 ロベルタ「同僚にそんな人が?」 ヒルシャー「ああ。       彼は戦いに身を投じるほかに、自分の存在を確認できない。       燃えるなといさめてもそれは存在を否定するだけで…。       これまでかえって傷つけてきた。」 ロベルタ「不器用なのね。まるで私たちのようだわ。      そうと思い込んだ生き方は、たとえ辛くても簡単にはやめられないものね。      でも…。      それでも思いは伝えるべきだと思う。      他人のために生きる人生だってきっとあると。      たとえ薄暗くても…、長く燃えてと望まれる火だってあることを。」 La Fine.