GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第55話 善意の花 ♂マリオ(マリオ・ボッシ): ♂ヒルシャー(ヴィクトル・ヒルシャー=ヴィクトル・ハルトマン): ♂ラシェルの叔父: ♂局長: ♂医者: ♂警官: ♀トリエラ: ♀ロベルタ(ロベルタ・グエルフィ): ♀ミミ(マリア・マキャヴェリ): ---------------------------------------- (前話に続いて自分の過去についてマリオから聞くトリエラ。) ┃【回想】6年前。 ┃***オランダ、アムステルダム。 ┃***殺害動画の現場になっていた川沿いの倉庫。 ┃***先に突入したヒルシャー、ラシェルを追ってマリオ・ボッシが踏み込む。 ┃ ┃マリオ「ハルトマン!!無事か!?」 ┃ ┃***ラシェルの死体を抱くヒルシャー。 ┃***側には片脚を切断されるも命を繋いでいる少女(トリエラ)。 ┃ ┃ヒルシャー「マリオ・ボッシ…。」 ┃ ┃マリオ(M)「俺達はマフィアの追っ手を逃れて女の子を助けだした。 ┃      女医を連れ出す余裕はなかった。遺体はその後見つかっていない。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***オランダ ハーグ、ユーロポール本部。 ┃***児童虐待取締局の局長室。渋い顔の局長とヒルシャー。 ┃ ┃局長「アムステルダムを拠点としたイタリアマフィアの人身売買。 ┃   お前の蛮勇で解決できそうだ…と、オランダ警察が歓喜しとったぞ。」 ┃ ┃ヒルシャー「局長。ラシェル・ベローの故郷を教えてください。」 ┃ ┃局長「処分が下りるまで自宅待機しておけ。」 ┃ ┃***局長、ヒルシャーを見遣り。 ┃ ┃局長「(ため息AD)。南仏のアルルだ。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***フランス、アルル。 ┃***ヒルシャーとラシェルの叔父、ラシェルの墓を前に。 ┃ ┃ラシェルの叔父「ラシェルの母親はあの子を産んだ時に死んじまってな…。 ┃        親父が男手ひとつで育てたんだが、あいつも去年の猛暑で逝っちまった。 ┃        親族は叔父の俺しか残ってないよ。 ┃        子供の頃から勉強ができる子でなあ…、村じゃ自慢の姪だった。」 ┃ ┃ヒルシャー「殉職の責任は僕にあります。」 ┃ ┃ラシェルの叔父「おめえが謝るこたあねえ。 ┃        ラシェルは犯罪集団から子供を救ったそうじゃねえか…。 ┃        内気で人見知りのあいつがパリで医者になり…。 ┃        やがてユーロポールに行ったのは、その使命を果たすためだったんだ。 ┃        親父も本人も天国で納得してるさ。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***話を終え車に戻るヒルシャー。同行者マリオが待つ。 ┃***移動の車中。 ┃ ┃マリオ「ハルトマン。今回のことで何かお咎めはあったのか?」 ┃ ┃ヒルシャー「今、上司が処分を考えてるよ。」 ┃ ┃マリオ「じゃあこの先どうする?ドイツに帰るのか?」 ┃ ┃ヒルシャー「先のことを考える気にはなれないよ。」 ┃ ┃マリオ「…女の子の容体はどうなんだ?」 ┃ ┃ヒルシャー「PTSD(心的外傷後ストレス障害)で意識が戻らない。」 ┃ ┃マリオ「治療法とかあるんだろ?」 ┃ ┃ヒルシャー「イタリアで革新的な催眠療法が研究中らしい。 ┃      でもオランダ警察が重要証人の国外移送を拒んでるんだ。」 ┃ ┃マリオ「手詰まりだな…。」 ┃ ┃ヒルシャー「何とかするよ。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***オランダ、警察病院。 ┃***救出された少女トリエラを前に医師と話すヒルシャー。 ┃ ┃医者「PTSDについてはこの警察病院では対処できません。 ┃   高度な専門スタッフがいないんですよ。 ┃   最悪このまま植物状態に…。」 ┃ ┃***医者、後ろを盗み見る。オランダ警察の刑事の姿。 ┃ ┃医者「あの刑事たちは、証拠にさえなれば患者の覚醒には関心ないようですよ? ┃   早く専門の治療機関をあたった方がいい。」 ┃ ┃ヒルシャー「(息つくAD)。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***とあるレストラン。ヒルシャーとマリオ。 ┃ ┃マリオ「女の子を病院から連れ出す?」 ┃ ┃ヒルシャー「オランダ警察は”証拠品”を他所に出す気はない。 ┃      彼女を助けだす手は一つだけだ。 ┃      マリオ…、協力してくれるか?」 ┃ ┃マリオ「もちろんだが…どうやって?」 ┃ ┃ヒルシャー「書類をでっちあげれば簡単だ。 ┃      オランダ警察が邪魔しなければ問題ない。 ┃      夜には刑事たちが帰るから残った制服警官を言いくるめる。 ┃      でも一人だといかにも不審なんだ。」 ┃ ┃マリオ「(息笑いAD)。 ┃    まかせとけ。そういう悪だくみはお手のもんだ。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***オランダ、警察病院。夜。 ┃***ヒルシャー、マリオ、移送と称し少女を連れ出す。 ┃***警官、慌てて止める。 ┃ ┃警官「…待ってください!!捜査官! ┃   移送は警部に確認を取らないと!」 ┃ ┃ヒルシャー「週末ハーグで診察を受けてくるだけだ。」 ┃ ┃警官「しかし…。念のため電話して…」 ┃ ┃マリオ「おいおいやめとけよ?今何時だと思ってんだ。 ┃    就寝中の警部殿を叩き起こしてみろ。 ┃    俺だったらつまらんことで電話するなと叱り飛ばすぜ。」 ┃ ┃ ┃---------------------------------------- ┃***病院外。患者輸送車に少女を乗せ。 ┃ ┃ヒルシャー「見事なハッタリだな。」 ┃ ┃マリオ「得意だと言ったろ?」 ┃ ┃ヒルシャー「途中で医師をピックアップする。 ┃      その時もうひと芝居だ。」 ┃ ┃ ┃マリオ「本当にいいのか? ┃    免職どころか犯罪だぜ?」 ┃ ┃ヒルシャー「(笑い息AD)。」 ┃ ┃【回想終了】 ---------------------------------------- ***ナポリ、マリオ・ボッシの家。 ***マリオとトリエラ、部屋には二人のみ。 トリエラ「(静かに泣くAD)。」 ***マリオ、しばらく待って。 マリオ「イタリアに来たヒルシャーは…、ツテを頼って社会福祉公社を訪れた。     その後のことは俺もよく知らん。     公社は研究用に若くて脳の適応力のある素体を欲していた。     犯罪人の持ち込んだ身元不明の少女は、彼らの関心を引いたらしい。     一年ほどの催眠治療を経て…。     体を戦闘用の実験義体に改造された。     ハルトマン…、ヒルシャーがそのことを知ったのはだいぶ後のことだ。          ………あとは本人に聞け。」 トリエラ「(静かに泣くAD)。」 ***電話がかかる。マリオ、出て。 マリオ「もしもし…ああ…俺だ…。     ……そうだ。今一緒にいる。     わかった…。」 ***電話終わり。 マリオ「ヒルシャーだ。     どうやったのかお前の居場所をかぎつけたぞ。     もう家の前に来てるそうだ。」 トリエラ「………。」 マリオ「もうヒルシャーから逃げるのはよせ。     あいつにはお前しかいないんだ。」 ---------------------------------------- ***マリオ宅、玄関前の階段。 ***ロベルタ、階段に座る。ミミ、階段の手すりの間に頭を挟んでいる。無言。 ミミ「………。」 ロベルタ「………。」 ミミ(M)「この人、知的でヒルシャーさんの好みっぽいなァ…。      トリエラの恋路がピンチだよ…。」 ロベルタ「ねえ。」 ミミ「!」 ***突然話しかけられ驚くミミ、手すりに頭をぶつける。 ミミ「(痛がるAD)。はい。」 ***ロベルタ、ライターもらい火をつける。 ロベルタ「(タバコ息AD)。二人は何の話をしているのかしらね。」 ミミ「…トリエラと親しいの?」 ロベルタ「いいえ。      でも命の恩人。」 ミミ「私とおんなじだー!」 ロベルタ「不思議な子ね…。それなのに。      何だか守ってあげたくなるわ。」 ミミ「トリエラはさ。    なんか応援したくなっちゃうよね。    きっと物語のヒロインなんだよ!    観客は一生懸命な姿を応援して、幸せになってほしいの。    なんかさー。私と違ってすごい頑張って生きてる気がするんだよね。」 ロベルタ「何が彼女にそうさせるのかしらね…。」 ***階段の下にヒルシャーが到着する。 ***ヒルシャー、実は腹を撃たれている。それを隠して。 ロベルタ「ヴィクトル!」 ミミ「ヒルシャーさん!」 ロベルタ「トリエラさんを迎えに?」 ヒルシャー「ああ。」 ロベルタ「顔色が悪いわ…。何があったの?」 ヒルシャー「うん…。色々とね。       あの子はここに?」 ロベルタ「ええ。」 ***トリエラ、玄関から出てくる。 ***トリエラ、ヒルシャー、互いに目を合わせ。 ヒルシャー「トリエラ。       さあローマに帰ろう。」 La Fine.