GUNSLINGER GIRL 作:相田裕 ---------------------------------------- ■第56話 鳥籠に還る ♂ヒルシャー(ヴィクトル・ヒルシャー=ヴィクトル・ハルトマン): ♂フェルミ(ピエトロ・フェルミ): ♂ジャン(ジャン・クローチェ): ♀トリエラ: ♀ロベルタ(ロベルタ・グエルフィ): ---------------------------------------- ┃【回想】 ┃***公社、義体棟のヘンリエッタとトリエラ部屋。 ┃***過去に担当官と無理心中した義体エルザについて調査に来た、公社職員フェルミとの会話。 ┃ ┃フェルミ「…じゃあエルザはどんな子だった?」 ┃ ┃トリエラ「担当官(ラウーロ)に完璧に惚れてたわ。 ┃     ここの子はだいたいそうよ。」 ┃ ┃フェルミ「君もそうなのか?」 ┃ ┃トリエラ「馬鹿言わないで。」 ┃ ┃【回想終了】 ---------------------------------------- ***ヒルシャー、トリエラ、ロベルタの車で送ってもらう。車降り。 ***(ヒルシャー、腹を撃たれているが隠している。) ロベルタ「ヴィクトル、ここで降ろしていいの?」 ヒルシャー「ああ…。ホテルはすぐそこだから。」 ***ロベルタ、だまってヒルシャーを見る。少し間あり。 ロベルタ「じゃあ、余裕ができたら連絡してね。」 ヒルシャー「ああ。」 ***二人、ロベルタの車を見送る。 トリエラ(M)「何も訊かずにいてくれた…。        大人だな…。」 ***ヒルシャー突然しゃがみ込む。 トリエラ「!ヒルシャーさん!?」 ヒルシャー「(荒い息AD)」 トリエラ(M)「そうだ!!お腹に怪我を…!」 トリエラ「大丈夫ですか?」 ヒルシャー「痛み止めが切れただけだ…。       ホテルに戻るぞ。」 ---------------------------------------- ***ホテルの部屋。 トリエラ「止血はしたんですか?」 ヒルシャー「ああ…。でも弾が残ってる。」 トリエラ「(深呼吸息AD)。      ガーゼを変えて弾片を抜きます。」 ヒルシャー「頼む…。」 ***トリエラ、麻酔注射器を取り出す。 ヒルシャー「麻酔はだめだ。」 トリエラ「!」 ヒルシャー「眠っている間にまた出ていかれたら困る。」 ***トリエラ、髪まとめる。ピンセットとナイフで弾を取り出し始める。 ヒルシャー「(苦しみAD)。ぐうぅっ…。       もし…トリエラが犯罪に遭わず……大過なく成人したなら…。       …この技量ならどうなったかと…時折考える…。       高名な学者…政治家…あるいは優秀な医師にもなれただろう…。              チュニジア…。君の故郷だけは突き止めた。」 ***トリエラ、灰皿に弾片を置く。 トリエラ「………終わりました。      飲んでください。」 ヒルシャー「ん?」 トリエラ「抗生物質です。」 ヒルシャー「そうか。       (薬を水で飲むAD)。」 トリエラ「どうしてあなたがそこまでこだわるのか。      理解できません。」 ヒルシャー「それが、ラシェル・ベローの願いだからだ。」 ***トリエラ、皮肉めいて。 トリエラ「殺人機械になることがですか?」 ヒルシャー「君はラシェルの善意を体現している…。       それを少しでも永らえるのが僕の使命だ。       義体となったトリエラと対面した時、僕は神の奇跡を見たと思った。       心と体に深い傷を負ったあの女の子が…。       無垢な瞳でこちらを見ていた。」 トリエラ「…あとで戦闘用だと知ってどうしたんです?」 ヒルシャー「ああ…。       ある日偶然そのことを知り、怒り狂った。       公社は秘密を知る者に容赦はしない。       僕は処刑を待つ身だった…。」 ┃【回想】 ┃***監房の中で絶望するヒルシャー。 ┃***扉開き、ジャンが入り口に立つ。 ┃ ┃ジャン「ここで俺と共に働け。ヴィクトル・ハルトマン。」 ┃ ┃ヒルシャー「断る!!」 ┃ ┃ジャン「政府が偽りの身分を用意する。 ┃    別人となって生まれ変わるんだ。 ┃    選択の余地はないぞ。 ┃    お前が死ねばあの子がどうなるか…。」 ┃ ┃ ┃【回想終了】 ---------------------------------------- ***ホテルの部屋。 ***トリエラ、俯いている。 ヒルシャー「裏切りのリスクが低く、五共和国派と関わりの少ない自分は都合が良かった。」 トリエラ「後悔しないんですか?      人生を台無しにして…。」 ヒルシャー「もともと器用に世の中を渡るタイプじゃなかった。       これが僕の生き方だ。       それに君をまき込んでしまった…。       …その責めは僕が受けよう。」 トリエラ「!」 ヒルシャー「ラシェルはいまわの際に詫びた。       エゴのために命を救って、結果苦しめるかもと…。       どうかあの人を恨まないで……」 ***ヒルシャー、めまいを感じる。 ***先ほど飲んだ薬は実は睡眠薬。 ヒルシャー「?」 ***トリエラ、顔を上げ涙。 トリエラ「私が存在する限り…。      あなたは過去に呪縛され続ける…。      そんなの…!      嫌です…!」 トリエラ(M)「私なんか死ねばいいんだ。」 ヒルシャー「すま…ない……。」 ***ヒルシャー、眠る。 トリエラ「(静かに泣くAD)。      うっ………うくっ………。      くっ………!!」 ***トリエラ、立ち上がりコートを着る。 ***ドアの前に立ち。 トリエラ「さようなら。ヒルシャーさん。      もう私のせいで、危ない目にあわないでくださいね…。」 ***トリエラ、OUT。 ┃【回想】最初の回想の続き。 ┃ ┃フェルミ「君もそうなのか?」 ┃ ┃トリエラ「馬鹿言わないで。」 ┃ ┃フェルミ「「条件付け」?」 ┃ ┃トリエラ「条件付けと愛情は似てるの。 ┃     どこまでが自分の感情かわからない。」 ┃ ┃【回想終了】 ---------------------------------------- ***部屋の外。 ***トリエラ、ドアノブを後ろ手に握ったまま立つ。 トリエラ「(すすり泣くAD)。」 ***トリエラ、再びドアを開き眠るヒルシャーに飛びつく。 トリエラ「(飛びつくAD)。      (絞りだすように泣くAD)。」 ***トリエラ、静かにヒルシャーにキス。 トリエラ(M)「この人と一緒に。        必死に生きて、そして死のう。」 ---------------------------------------- ***後日、公社。トリエラ、外の歩道を歩く。 トリエラ(M)「結局、私は過去の記憶を取り戻すことはなかった。        マリオやヒルシャーに聞かされた己の来歴は、夢のまた夢、朧の彼方にあって実感はない。        でも。 ***トリエラ、冷えた手を息で温め。 トリエラ(M)「私の命が託されたものだっていうことは何となく分かる…。        だから―――」 ***トリエラ、流れる涙を腕で拭う。 トリエラ(M)「だからがんばって生きるよ。        お母さん。」 La Fine.