第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉
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孤独のグルメ
第9話 神奈川県藤沢市江ノ島の江ノ島丼

原作
原作:久住昌之
作画:谷口ジロー
時間
10分
総セリフ数
33
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※M・・・モノローグ、 N・・・ナレーション。すべてゴロー



001
M
納品のついでとはいえ、江ノ島なんて来るのは学生の時以来2度目だ。
何年ぶりだろう。
002
M
こんなだったかなぁ…全然覚えてない。
前に来た時は当時つきあっていた彼女と一緒だったな。
その頃俺はカメラに少し興味を持っていて、確か崖の見える場所で彼女のモノクロ写真を撮ったんだな。
003
ゴロー
懐かしいな。
長いコートを着てたからシーズン・オフだったと思う。
004
M
あれはいったいどこだったんだろう……。
だけどこの雰囲気、俺は嫌いじゃないな。
曲がりくねった細い坂道に、古い小さな店がこちゃこちゃと軒を並べているこの感じ…。
006
M
さてどこかでなんか食べよう。
さすがにシーズン前の平日は人出も少ない。
007
ゴロー
崖…。
あっ、ここだ。
008
M
俺はカメラの露出に夢中だったけど。
もしかしたらあの頃すでに彼女の心は、俺から離れつつあったのかもしれない。
009
ゴロー
あ…。
ということはこの先に饅頭屋があるはずだぞ。
---
 
 
010
ゴロー
あった。
すみません。饅頭をバラで2個ください。
今食べていきます、ここで。
011
ゴロー
(饅頭食べる)はふ はふ はふ
012
M
うん、うまい。
当時の味は全然覚えてないけど、とりあえず美味しいぞ。
軽くてあたたかい。
あぁ…なんだかいいなぁ。
---
 
 
013
ゴロー
あれ。
014
M
ここだったかな、 あの時に入ったの…。
まあいい。とりあえず飯だ。
015
ゴロー
えーと、なににするかな。
016
M
海を一望できる窓際の席に通された。
017
ゴロー
この江ノ島丼の蟹の味噌汁付きをください。
あとさざえの壺焼き。
018
M
長続きしなかったな……今はナカムラのカミサンで二児の母か。
そういう運命なんだよな。
019
ゴロー
おっと…ネコ…
020
M
窓のさんをネコが通り過ぎていった。
あいつも腹が減ったのかな。
そんなことを考えていると、俺の飯が来た。
021
N
【江ノ島丼セット】1300円
<一見親子丼風>
 平たく薄い丼に盛られキザミノリが多め。ご飯は少なめ。
<蟹の味噌汁>
 半身がガサッと入り、割と派手だが味薄い。
<おしんこ>
 特筆すべきこともなき2種。
【さざえの壺焼き】850円
 中身はすでに切ってある。薬味はなし。
022
ゴロー
(蟹の味噌汁をすする)ズズゥ
023
M
ちょっと味が薄いな……
なんという種類の蟹だろう。
このへんで採れるのかな。
024
ゴロー
これが江ノ島丼…か。
(江ノ島丼食べ)もぐ もぐ
025
M
うん…卵が結構甘い感じ。
これは……、何が入ってるんだ…?
これはアワビか?卵の味付けが濃くてよくわからん。
026
ゴロー
(硬い食感にあたり)コリ
ん?こりゃあ"さざえ"か。
027
M
しまった…そうか、じゃあ"さざえの壺焼き"でさざえがダブってしまった。
なんだ…。それなら焼きハマグリにすればよかったが。
しかしハマグリ3つで850円というのもなぁ。
028
ゴロー
(さざえの壺焼きを食べる)コリ コリ
029
M
ちょっとしょっぱいかな…でも感じ感じ。
(海を見て)やっぱりこういうところで食う物に文句言っちゃいけないぜ。
030
ゴロー
(飛来したトンビに驚き)わっ!
031
M
店員さんが慣れた手つきでトンビに魚をやっている。
トンビの方も勝手知ったるという感じで、上手いことキャッチするもんだな。
032
ゴロー
(感嘆して)ほ――っ
033
M
季節はずれの海とトンビの群れ……か。
さえない思い出の脇役にピッタリかもしれん。

第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉
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