原作
|
オノナツメ |
時間
|
15分 |
総セリフ数
|
100 |
001
|
女
|
(ため息のようにタバコをふかす) |
--- | * |
高級な外車を運転し、近くのダイナー(大衆食堂)にやってきた女。 席に着くと食堂店主に声をかける。 |
002
|
女
|
タバコある? |
003
|
食堂店主
|
はいよ。 注文は? |
004
|
女
|
コーヒーちょうだい。 |
005
|
食堂店主
|
疲れた顔してるね。 美人が台無しだ。 |
006
|
女
|
・・・・・・・・・。 |
--- | * |
店を出た女は、店の前で柱にもたれて座り込んでいる薄汚い男『イアン』を見つける。 イアンは眠っているが、女は近づいていき声をかける。 |
007
|
女
|
・・・・・・楽しい? |
008
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 うん。楽しいかな。 |
009
|
女
|
・・・・・・・・・。一緒に来ない? |
010
|
イアン
|
どこに? |
011
|
女
|
夕食を食べに。 |
012
|
イアン
|
(女が出てきたダイナーを指差して) ダイナー? |
013
|
女
|
(微笑みイアンの手をとって) 来て。 |
--- | * |
二人が高級そうなブティックにいる。 スーツを着たイアンが女の前に出てくる。 |
014
|
イアン
|
どう・・・かな? |
015
|
女
|
カワイイじゃない。 店員さん、これカードで。 |
016
|
イアン
|
あのう・・・ |
017
|
女
|
遠慮しないで。 (ネクタイを軽く引っ張って) 似合うわよ? |
--- | * |
その後高級レストランに入る。 向かい合って座る二人の間に豪奢な料理が並ぶ。 |
018
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 |
019
|
女
|
好きなように食べて、遠慮しないで。 |
020
|
イアン
|
・・・どうして俺にこんな事を? |
021
|
女
|
さあ? 私は楽しいわよ? 会ったばかりの浮浪者のあなたを拾ってディナーだなんて、楽しいじゃない。 最後の無駄遣いよ。 |
022
|
イアン
|
・・・・・・浮浪者・・・ |
023
|
女
|
なぁに? |
024
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 |
025
|
女
|
・・・私、間違ってる? |
026
|
イアン
|
うーんと・・・、でも似たようなものかも。 |
027
|
女
|
あなたヒッチハイカー?あらごめんなさい。 アハハハ、とんだ勘違いしちゃったわね。 (イアンの頭をなで) 許してね。 |
028
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 |
029
|
女
|
なぁに?お母さんみたい? |
030
|
イアン
|
・・・・・・ううん。 |
031
|
女
|
どこから来たの? |
032
|
イアン
|
メルボルンの近くの・・・ |
033
|
女
|
あなたオーストラリア人? アメリカのどこを歩いてきたの?おもしろい話を聞かせて。 |
--- | * | カードで支払いを終え、店を出る。 |
034
|
イアン
|
ごちそうさまでした。 |
035
|
女
|
ダンナの金だから。 (パキッとカードを折って) 最後の無駄遣い。付き合ってくれてありがとうね。 |
036
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 |
037
|
女
|
・・・海までドライブしようか? |
--- | * | 夜の海岸。砂浜に並んで立つ二人。 |
038
|
女
|
あなたって変わってるわね。 |
039
|
イアン
|
・・・よく云われる。 |
040
|
女
|
でも話してて楽しいわ。 (微笑み) 私の人生が今までつまらなすぎたのかも。 きっとそうなんだわ。 (座って) ・・・どこか遠くに行きたくて。 あなた、これからもいろんな所に行く? 連れて行ってよ。 |
041
|
イアン
|
でも家族がいるんでしょ? |
042
|
女
|
もういらないの。 好きでもない男にワガママな娘。 捨ててきちゃった。 |
043
|
イアン
|
(女の横に座って) 俺、姉さんがいる。 でも、もうずっと会ってない。 アメリカに来てるんだ。それで捜してる。 |
044
|
女
|
アメリカだけで? |
045
|
イアン
|
まず知り合いのところを廻ってる。 でもどこにもいなくて、それで考えてたんだ。 さっきダイナーの前で。 次はどこを捜したらいいのかなって。 考えてるうちに眠っちゃったんだけど・・・ |
046
|
女
|
諦めないのね。 |
047
|
イアン
|
家族だから側にいたい。 |
048
|
女
|
・・・両親は? |
049
|
イアン
|
いるよ。 ロンドンとメルボルンにいる。皆バラバラなんだ。 |
050
|
女
|
お姉さんてどんな人? |
051
|
イアン
|
・・・あなたみたい。 |
052
|
女
|
私? |
053
|
イアン
|
強くて、優しいんだ。 憧れるような人。 母さんかもしれないって思ってる。姉さんのこと・・・なんとなくだけど。 会って話をしたいし、みんな一緒にいられたらって思う。 あなたがいなくなったら、娘さん、俺みたいにアメリカ中を捜し廻るかも。 |
054
|
女
|
まさか。 |
--- | * | しばらく見つめあう。 |
055
|
女
|
・・・私間違ってる? |
056
|
イアン
|
たぶん。 |
057
|
女
|
私どうしたらいい? |
058
|
イアン
|
・・・どうしたらいいかな。 |
059
|
女
|
戻るべき? |
060
|
イアン
|
(少し微笑んで) うん。 |
--- | * |
イアンが先に立ち、手を差し伸べる。 女はその手をとり立ち上がろうとするが、イアンがバランスを崩したせいで二人とも転ぶ。 |
061
|
イアン
|
わっ。 |
062
|
女
|
あらっ。 (大きく笑って) アハハハ!ひ弱ね。 |
063
|
イアン
|
スポーツはしてたんだけど・・・トラック競技、走るのは好きだよ。 |
064
|
女
|
じゃあ今走ってみせて、砂浜の端っこまで。 |
065
|
イアン
|
また足をとられてこけちゃうかも。 |
066
|
女
|
アハハハハ! こんなに笑ったの久しぶりかも。アハハハ。 私なんかよりあなたのほうがいろんなものを抱えてそう。 ダイナーで会ったとき、どうして楽しいって云ったの? |
067
|
イアン
|
・・・・・・楽しくなさそうな顔してたから。 俺のほうが楽しいのかなって思ったんだ、 それで。 |
068
|
女
|
どこかに行くなら一人でもいいし、二人でだとしても誰でもいいと思ったの。 あなたがいいわ。 真っ白ね。 純真って云うのかしら。 でも子供のそれとは違って、どこかつかみどころがない感じ。 ただ単純なだけじゃないんだわ。 |
069
|
イアン
|
・・・・・・・・・。 |
070
|
女
|
もう少し歳が近かったらよかったのに。 ここであなたと別れるのは寂しいわね。 |
071
|
イアン
|
再会の約束をしない?会ってお互いの事を話すのは? 今日みたいに。 |
072
|
女
|
いいわね。 |
073
|
イアン
|
一年後・・・ううん三年後に。 |
074
|
女
|
何か大きく変わってるかも。 |
075
|
イアン
|
きっと変わってるよ。 |
076
|
女
|
・・・本当にいい子。 |
--- | * | 女がイアンの顔を抱き寄せ、額と額を合わせる。 |
077
|
女
|
お姉さんを思い出したでしょ? |