Action
原作
加賀隼人(オリジナル)
時間
5分
総セリフ数
24




001
お前を見つめているといつも不安になる。
お前は俺になんか釣り合わないんじゃないかって。
002
お前はかわいい。
俺なんかと違って仕事もできるし、
みんなにも好かれる。
003
どうして俺なんかと付き合ってるのか分からない。
004
二人きりになった時に俺がそれを言うと、
何でそんな事を聞くのとでも言いたげな目で、
責めるような目で、じっと見つめてくる。
005
そんなとき俺はいつも、
何も言わず、
何も言えず、
お前が黙って手を握って、
キスをしてくれるのを待つ。
006
その瞬間だけ、俺は不安から解放される。
満たされる。
007
二人で決めたバイト先のハンバーガーショップで、
テキパキと働くお前の後姿を見る。
同僚と談笑するお前を、遠目に見る。
008
カウンターで注文を受けるお前。
裏方でひとり、トレイを拭き続ける俺。
一日に何百人相手に笑顔を振りまくお前。
笑顔どころか、顔を見られることもない俺。
009
だからバイトあがり。
二人で帰ってるときに言ってみる。
010
今日すごいカッコいい客来てたな。
昼頃のカップル、すごい気遣いできる彼氏だったよな。
お前のことジッと見てるのいたぞ。
011
店一番の人気店員は違うな。
012
失敗した。
013
そう思った時にはもう遅かった。
お前は突然俺に背を向けると走りだした。
手を握ることもなく、
唇をつなぐこともなく、
言葉を発することもなかった。
014
でも俺は、
そんなお前を追いかけ、
手を掴んだ。
015
思えばそれが、
俺が起こした最初のアクションだったのかもしれない。
016
ドラマだったら、
ここはなにもできず見送って、
自分ひとりで部屋に戻って、
自分と葛藤しながら反省したりするんだろうな。
なんてことを考えながらだったけど。
017
あそこでお前を追わなかったら、
俺は主人公になれない気がした。
俺にはお前をつなぎとめられる要素なんて、
何もないんだから。
018
ゆっくりと振り返ったお前は、
目にいっぱい涙をためて、
俺に聞こえないように何かを言った。
019
それから、キスをした。
はじめて恋した時のような、
淡い胸の痛みを感じながら。
幸せをかみしめながら。
020
しばらくして、俺たちは別れた。
理由は語るほどでもない些細なことだ。
021
俺が悪かったんだけど。
022
恋は、
始まりも、終わりも、
やっぱり運命なんだと思う。
023
俺は今でも。
時々思い出す。
二度と味わうことのできないあの味を。
024
思い出す。

END