|
田中芳樹 |
|
25分 |
|
189 |
|
001 |
N |
いつの世も戦争が続いている。 いつの世も戦争によって残されるのは、無人の荒れ野だけだ。 そして刻まれた傷は、時の流れとともに消えてゆく。 その傷を目撃し記憶しているのは、満天に輝く星の群れかもしれない。 その星すら、いつの日か流れ星のように消え去る運命にある。 これは、そんな星々の間でいつの日か語られたある人間たちの今はもう忘れかけている戦いの記録である。 その頃銀河という小さな島宇宙の中は、大きく二つに分かれて戦っていた。 銀河帝国と自由惑星同盟である。 さらに両者と交易する小都市国家フェザーン自治領があり、戦いに参加しようとせず、両方の戦いの成り行きを見守っていた。 戦争は、既に150年続いていた。 |
--- | ||
002 |
N |
宇宙暦796年 帝国暦487年 初頭 帝国艦隊旗艦ブリュンヒルト。 その船用乗降口に揚陸艇が5隻泊まり、それぞれからウィルバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将をはじめとする帝国軍の提督たちが乗り込んできた。 同艦ブリッジではローエングラム・フォン・ラインハルト上級大将とその副官ジークフリード・キルヒアイス大佐が無限に広がる宇宙に目を向けていた。 |
003 |
キルヒアイス |
星を見ておいでですか? |
004 |
ラインハルト |
星はいい。何事にも動じず、いつもじっと同じ場所で瞬き続け、私たちを見守ってくれる。 |
005 |
キルヒアイス |
はい。あの星の群れに比べれば、我々の戦いは小さなものなのかもしれません。 |
006 |
ラインハルト |
確かに・・・我々が見ようとしているものに比べれば、はるかに小さい戦いだ。 |
007 |
キルヒアイス |
我が軍が対する敵は2倍のほぼ40,000艦。三方向から包囲せんとしています。 これにつき、5人の提督が閣下に緊急にお会いしたいと来られました。 |
008 |
ラインハルト |
さぞや、我が軍の老いぼれどもは顔を青くして来ることだろう。 |
009 |
N |
そこへ5人の提督が並び入り、ラインハルトに対して最敬礼をした。 最初に発言したのはその筆頭たるメルカッツ大将であった。 |
010 |
メルカッツ |
司令官閣下。意見具申を許可していただきありがとうございました。 |
011 |
ラインハルト |
卿らの言いたいことは分かっている。これが不利な状況にあると、卿らは言うのだな? |
012 |
N |
代わって口を開いたのはシュターデン少将。 |
013 |
シュターデン |
とは申しておりません。ただ不利な態勢にあるのは事実です。 被害を最小にとどめるための手段が必要です。 |
014 |
ラインハルト |
つまり撤退せよと言うのだろうがそうはいかん。 撤退など思いもよらんことだ。 |
015 |
シュターデン |
なぜです!?理由を聞かせていただけますか。 |
016 |
ラインハルト |
我々が敵より圧倒的に有利な態勢にあるからだ。 |
017 |
N |
銀河帝国にも自由惑星同盟にも属さないフェザーン自治領。 その自治領府では領主であるアドリアン・ルビンスキーが戦場俯瞰図を眺めながらひとりごちていた。 |
018 |
ルビンスキー |
数の勝負なら今回は同盟軍の勝ちか。 もっともどちらが勝とうと、この銀河を覆う戦雲は簡単には晴れぬ。我々フェザーン自治領は当分高みの見物だ。 帝国と同盟が戦いに疲労すればするほど、利益を得るのは我らフェザーンなのだからな。 フフフ・・・・・・ |
019 |
N |
戻って、帝国艦隊旗艦ブリュンヒルトのブリッジ。 |
020 |
ラインハルト |
今は前進あるのみ。これが私の考えた作戦だ。 |
021 |
シュターデン |
机上の空論です!上手くいくはずがありませんぞ閣下。 このような・・・ |
022 |
ラインハルト |
もういい。 卿らは私の指揮下にある。 |
023 |
提督たち |
・・・・・・・・・。 |
024 |
ラインハルト |
その指揮に従わぬならば、私は帝国の軍規に則り卿らの任を解き厳罰に処するだけのこと。 |
025 |
シュターデン |
なっ!! |
026 |
ラインハルト |
もうよい退室せよ。 話は終わった。 |
027 |
N |
司令官室を出た提督たちは、口々に非難の言を発した。 |
028 |
シュターデン |
あの生意気な・・・金髪の小僧め! 姉に対するご寵愛で陛下のご威光を笠に着おって・・・! |
029 |
メルカッツ |
若さゆえだ、子供のような年の男に大人がそう熱くなることもなかろう。 |
030 |
ファーレンハイト |
・・・・・・・・・。 |
031 |
N |
提督らを送り出したラインハルトとキルヒアイス。 |
032 |
キルヒアイス |
よろしいのですか?あそこまで言って。 |
033 |
ラインハルト |
構わぬ。彼らの不満など戦いに勝てば消える。 |
034 |
キルヒアイス |
・・・・・・。 今日は、姉君の誕生の日ですが。 |
035 |
ラインハルト |
忘れるはずはない。 誕生日の贈り物は今日の戦いの勝利だ。 |
036 |
N |
この度の会戦の報は皇帝の元にも届けられていた。 新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)。 皇帝や貴族たちが多数住まう銀河帝国の本拠地といえる場所である。 国務尚書のクラウス・フォン・リヒテンラーデ公爵が、皇帝フリードリヒ4世に向けて、その書簡の旨を読み上げていた。 |
037 |
リヒテンラーデ |
同盟を斉唱する叛徒共の兵力が、我が軍の2倍に達するとの知らせが参っております。 |
038 |
フリードリヒ4世 |
此度は・・・負けるか。 |
039 |
リヒテンラーデ |
真に恐れ多い事ながら・・・。 |
040 |
フリードリヒ4世 |
そうか。討伐軍の指揮官はそちの弟であったな。 |
041 |
アンネローゼ |
・・・・・・・・・。 |
042 |
N |
フリードリヒ4世のそばに控えていたアンネローゼ・フォン・グリューネワルトは声をかけられるも、その顔を少し伏せるのみであった。 |
043 |
リヒテンラーデ |
ローエングラム家の門地を継いで初の出征。 いささかめぐり合わせが悪うございましたか・・・。 |
044 |
フリードリヒ4世 |
あの者のことだ。無為に破れはすまい。 |
045 |
アンネローゼ |
・・・・・・・・・。 |
046 |
N |
アンネローゼの脳裏に10年ばかり前の記憶がよみがえる。 自らが帝室にあがることになった際、まだ幼かったジークフリード・キルヒアイスに弟ラインハルトの行く末を任せたことを・・・。 帝国艦隊 旗艦ブリュンヒルト 司令官室。 |
047 |
キルヒアイス |
・・・。 |
048 |
ラインハルト |
そう心配するな。我々は勝てる。 だが・・・ |
049 |
キルヒアイス |
何かご懸念が? |
050 |
ラインハルト |
ひとつ問題があるとすれば・・・ |
051 |
キルヒアイス |
はい。 |
052 |
ラインハルト |
敵にあの男がいるかどうかだ。 |
053 |
キルヒアイス |
かつて・・・"エルファシルの英雄"と呼ばれた男・・・ |
054 |
ラインハルト |
・・・ん。 |
--- | ||
055 |
N |
陣営は代わって、自由惑星同盟艦隊 第二艦隊 旗艦パトロクロス。 その作戦室で立案しているのは第二艦隊司令パエッタをはじめとする幕僚の面々である。 その長机の端には直立不動のヤン・ウェンリーの姿がある。 |
056 |
パエッタ |
ヤン・ウェンリー准将、確かに作戦は読ませてもらった。 しかし、いささか慎重論過ぎる。 敵に比べ我がほうの艦数は倍だ。逃げ道を考えて戦っている状態ではない。 何故今更負けない算段をせねばならんのだ。 |
057 |
ヤン |
しかし戦場では、何が起こるかわかりません。 油断は禁物でしょう。 |
058 |
パエッタ |
・・・とにかく。全員の意見でこの作戦は却下する。 |
059 |
ヤン |
・・・・・・・・・。 |
060 |
パエッタ |
言っておくが、君に含むところがあるわけではないぞ。 |
061 |
ヤン |
そのお言葉だけで十分です。 では! |
062 |
N |
私室に下がったヤン。そこでは、ヤンの後輩に当たるダスティ・アッテンボローがソファにもたれて待っていた。 |
063 |
アッテンボロー |
またですか? |
064 |
ヤン |
はー。どうも教師運が悪いらしく、私の答案はいい点数が出ないね。 |
065 |
アッテンボロー |
仕方ないですよ。あいつら年を取り頭が固くなってるんです。 |
066 |
ヤン |
ホント年はとりたくないねぇ。 |
067 |
アッテンボロー |
で。ご老体たちにお任せして・・・、今回は勝てるんでしょうね? |
068 |
ヤン |
数の上ではね、勝利は約束されたようなものだ。 だが・・・ |
069 |
アッテンボロー |
だが? |
070 |
ヤン |
敵の司令官は奴さんだ。 |
071 |
アッテンボロー |
ローエングラム伯ラインハルト・・・確か、上級大将。 |
072 |
ヤン |
そう。白い船の司令官。 奴さんは何をやるかわからない。 |
073 |
アッテンボロー |
やですよ、あの世に行くのは。 |
074 |
ヤン |
ああ。だから目が離せない。私の作戦を却下した司令官でもね。 さ、ブリッジに行こうか。 |
075 |
アッテンボロー |
その作戦立案書、読ませてもらいます。 |
076 |
ヤン |
無駄だぞ。 |
--- | ||
077 |
帝国軍オペレーター |
アスターテ会戦の敵軍数は我が軍の倍と発表されました。 帝国軍の勝利を遠い空より期待しましょう。 |
078 |
N |
その頃の銀河帝国本国。 今回の作戦には参加しないオスカー・フォン・ロイエンタール中将とウォルフガング・ミッターマイヤー中将が卓を囲んでいた。 妥当人事なのか、人事部の略坊なのか・・・。この間までラインハルト麾下にあった二人は別の部署に移されていたのだ。 |
079 |
ロイエンタール |
あの方から別れて4ヶ月か。 |
080 |
ミッターマイヤー |
軍の人事には口を挟めないしな。 他の連中も、今はあの方のそばにいないそうだ。 |
081 |
ロイエンタール |
ん。今ついているのは、赤毛の男だけだ。 あの方は、俺たち無しでいけるだろうか? |
082 |
ミッターマイヤー |
・・・と言って、ここから手伝いに飛んでいけるわけでもない。 大丈夫だよ。あの方はきっとやり抜くさ。 |
083 |
ロイエンタール |
ああ。俺もそれは信じたい。 |
084 |
オーベルシュタイン |
・・・・・・・・・。 |
085 |
帝国軍オペレーター |
いよいよアスターテ会戦が開始されます。 |
086 |
N |
帝国の、同盟の、フェザーンの。それぞれの思惑を孕んだ戦いの火蓋が切って落とされた。 |
--- | ||
087 |
ラインハルト |
帝国軍全艦隊。正面の敵にむかえ。 |
088 |
N |
ラインハルトの号令一下、帝国艦隊が大きな前進を始める。 それを受けた同盟軍旗艦では。 |
089 |
同盟軍オペレーター |
帝国艦隊は予想の空域に止まらず、急進して第四艦隊と接触します。 |
090 |
パエッタ |
なんだと!?そんな非常識な! ありえぬ事だ!! |
091 |
N |
焦りを隠そうともしない司令パエッタ。が、その脇に控えるヤンとアッテンボローは冷静だった。 |
092 |
ヤン |
私が奴さんなら同じ事を考えたはずだよ。 |
093 |
アッテンボロー |
あー。困ったもんですよね。いつも先手を取るのはあの男だ。 (読みあげるように)"敵に積極的意思があれば、この状況を包囲される危機と考えず、分散した我が軍を各個撃破する好機と考えるだろう。" やはり敵さんはそれを考えていたんだ。これに対する対策は・・・ |
094 |
ヤン |
読んでも無駄だよ。もうその作戦を使う余地はない。 だがまだ別の手はあるが・・・、ただそうしなければ40,000隻の艦が20,000隻の艦に全滅させられ、敵に損害はほとんどないだろう。 |
095 |
N |
まさに敵軍各個撃破のチャンスを得た帝国軍ラインハルト陣営。 |
096 |
帝国軍オペレーター |
敵正面艦隊総数13,000。 |
097 |
ラインハルト |
単なる数の計算だ。勝つのが当たり前ではない。 |
098 |
キルヒアイス |
仰るとおりです。 |
099 |
N |
同盟軍第二艦隊司令パエッタは対抗策を見出せずにいた。 |
100 |
パエッタ |
40,000で敵を包囲するつもりが、各個に攻撃されれば各艦隊13,000。20,000対13,000。完璧に我がほうは負ける。 |
101 |
N |
帝国軍の苛烈な攻撃にされされている第四艦隊。 その旗艦レオニダスのブリッジには迎撃指示を出す司令パストーレ中将の怒号がこだましている。 しかしオペレーターからの返答はむなしいものだった。 |
102 |
同盟軍オペレーター |
敵戦闘艇急襲!発進間に合いません!! |
103 |
N |
第四艦隊の惨状は第二艦隊にも届いていた。 |
104 |
同盟軍オペレーター |
第四艦隊、戦闘艇上昇部の武器に引火!発進不能!! なお、敵妨害電波のためそれ以上の戦況は不明!! |
105 |
パエッタ |
なんてことだ!これでは腹に火薬を抱えて撃ってくださいと言わんばかりではないか! 第二艦隊、全戦闘艇発進準備! |
106 |
同盟軍オペレーター |
第二艦隊、戦闘艇発進準備完了。 |
107 |
パエッタ |
よし。第二艦隊、第四艦隊救援に出撃。 |
108 |
ヤン |
待ってください。 我々が到達した頃には戦闘は終わっています。 敵は戦場を離れ、第二第六艦隊よりも早くどちらかの艦隊の背後に回り攻撃をかけるでしょう。 我々は先手を取られ、しかも現在のところ取られっぱなしです。 これ以上敵の思惑に乗る必要はないと思われますが・・・ |
109 |
パエッタ |
ではどうしろと言うのだ? |
110 |
ヤン |
第六艦隊とは戦場で合流せず、まず一刻も早く最短距離で別の場所で合流するのです。 第二第六の両艦隊をあわせれば26,000隻。20,000の敵と五分以上の勝負が出来るでしょう。 |
111 |
パエッタ |
・・・。 すると君は、第四艦隊を見殺しにしろというのか? |
112 |
ヤン |
これから行っても間に合いません。 ここは広大な宇宙です。戦場まで何時間かかるとお思いですか? |
113 |
パエッタ |
しかし友軍の危機を放置してはおけん。 |
114 |
ヤン |
では結局三艦隊いずれもが、敵の各個撃破戦法の餌食になってしまいます。 |
115 |
パエッタ |
そうとは限らん! 第四艦隊とてむざむざ敗れはすまい。彼らが持ちこたえていてくれれば・・・・・・ |
116 |
ヤン |
無理だと先刻も申し上げました。 |
117 |
パエッタ |
第四艦隊を指揮するパストーレ中将は、私の友人であり百戦錬磨の猛将である。簡単に負けるわけはない! もういい准将。我が軍は友軍を見捨てはしない。 |
118 |
ヤン |
友人は大事でしょう。私にも第六艦隊に友人がいます。 みすみす今生きている第六艦隊を失いたくはありません。 そしてこの第二艦隊、たとえ第四艦隊を失うにしても・・・・・・ |
119 |
同盟軍オペレーター |
第四艦隊の状況不明! |
120 |
パエッタ |
不明な以上望みはある。第二艦隊は第四艦隊を救援に向かう。 わかったな? |
121 |
ヤン |
そこまで仰るなら、私の出る幕ではありません。 では・・・ |
122 |
N |
ブリッジからアッテンボローと共に待機室に下がったヤン。 |
123 |
ヤン |
困ったことになったよ。 また一つ策を考えなければならない・・・せめて生き残る手をね。 |
124 |
アッテンボロー |
これじゃ救助に行って、二重遭難する山登りみたいなものですからね。 |
125 |
ヤン |
もうひとつの第六艦隊はどう出るかな? あそこの作戦参謀は私の同期なんだ。優秀な奴だ。 |
126 |
アッテンボロー |
ラップ先輩のことですね? |
127 |
ヤン |
ああ。上官さえ良ければ彼の意見は聞き入れられるはずなんだが。私なんかと違ってね・・・・・・ |
128 |
N |
その頃第六艦隊に身を置くジェーン・ロベルト・ラップ少佐は司令のムーアと共に食事を取っていた。 |
129 |
ムーア |
何?ラップ少佐。今なんと言った。 |
130 |
ラップ |
はい。既に第四艦隊は敗北したと、小官は予測します。 |
131 |
ムーア |
・・・第四艦隊を見捨てろと言うのか? |
132 |
ラップ |
それよりも無傷の第二艦隊と一刻も早く合流すべきかと。 |
133 |
ムーア |
合流するとも。第四艦隊の戦っている戦場でな。 |
134 |
ラップ |
それでは間に合いません。我々はみすみす敵の餌になってしまいます。 |
135 |
ムーア |
敵の餌?敵を餌にするのは我々だ。 我々は第四艦隊を救援に向かうぞ。 |
136 |
ラップ |
・・・は。もはや差し出がましいことは申し上げません。 ヤンの奴ならどうするか・・・・・・ |
137 |
N |
帝国艦隊旗艦ブリュンヒルトの司令室ではメルカッツ提督からの戦勝報告がなされていた。 |
138 |
メルカッツ |
抵抗は終わりました。完璧な勝利です。 以後掃討作戦に移ることになりますが。 |
139 |
ラインハルト |
無用だ。 |
140 |
メルカッツ |
は? |
141 |
ラインハルト |
戦闘不能な敵など相手にせずとも良い。 敵はまだ二つの艦隊が残っている。次の戦闘に備えて戦力を温存しておくことだ。 |
142 |
メルカッツ |
わかりました。司令官閣下。 |
143 |
ラインハルト |
彼らの態度も少しは変わるだろう。 |
144 |
キルヒアイス |
変わらざるを得ないでしょう。提督たちの反感も。 |
145 |
ラインハルト |
次に左右どちらの艦隊を攻撃すべきだと思う、キルヒアイス? |
146 |
キルヒアイス |
どちらに行くことも可能ですが、もうお考えは決まっておりましょう? |
147 |
ラインハルト |
まあな。 そちらまでには何時間かかる? |
148 |
キルヒアイス |
四時間弱です。 |
149 |
ラインハルト |
こいつ・・・。おまえも分かっていたのだな。 ではその旨を全艦隊に伝達しろ。時計方向に進路を変更しつつ進み、敵第六艦隊から攻撃する。 |
150 |
キルヒアイス |
かしこまりました。 ・・・・・・・・・。 |
151 |
ラインハルト |
何か異議でもあるのか? |
152 |
キルヒアイス |
いえ、そうではありませんが。 この時間を利用して兵士たちに休息を取らせてはいかがかと思いますが。 |
153 |
ラインハルト |
ああそうだな、気づかなかった。その時間は? |
154 |
キルヒアイス |
1時間半ずつ、二交代で。 |
155 |
ラインハルト |
うむ。 |
--- | ||
156 |
帝国軍オペレーター |
前方。敵軍第六艦隊発見。 |
157 |
ラインハルト |
攻撃を開始せよ。 |
158 |
N |
休息をとり鋭気を養った帝国軍は、万全の態勢で攻勢に出た。 その標的たる第六艦隊旗艦ペルガモンでは。 |
159 |
同盟軍オペレーター |
4:30の方向に艦影。 |
160 |
ムーア |
4:30だと!? |
161 |
ラップ |
敵です。迎撃の用意を。 |
162 |
ムーア |
うろたえよって。敵は我々の行く手だ。そんな方向にいるはずがない! |
163 |
ラップ |
ですが閣下。敵はおそらく戦場を移動したのでしょう。 |
164 |
ムーア |
第四艦隊との戦いを放置してか? |
165 |
ラップ |
申し上げましたでしょう。第四艦隊は、既に敗退したのです。 |
166 |
ムーア |
不愉快なことを言うな! |
167 |
ラップ |
現実はもっと不愉快です!! |
168 |
同盟軍オペレーター |
敵襲です!! |
169 |
ムーア |
応戦だ!反転して応戦だ!! |
170 |
ラップ |
いけません!勝敗は目に見えています。今は少しでも犠牲を少なくすべきです! |
171 |
ムーア |
黙れ。俺は卑怯者にはなれん! !?うわぁああああああああ!!! |
172 |
N |
その時、敵の砲の直撃がペルガモンのブリッジを襲った。 司令のムーアは蒸発。ラップも艦橋の折れたシャフトに半身を貫かれ、瀕死の状態となっていた。 わずかに残された体の自由をもって、ポケットから立体写真を取り出すラップ。 |
173 |
ラップ |
ヤン・・・・・・お前は・・・こんな様になるなよ・・・・・・! ジェシカ・・・・・・おまえとも会えなくなった・・・・・・。ここで消える俺を・・・許してくれ・・・・・・ |
174 |
N |
第二艦隊旗艦ブリッジ。 |
175 |
同盟軍オペレーター |
第六艦隊、全滅のもよう。 |
176 |
パエッタ |
何!? |
177 |
ヤン |
ラップ少佐・・・! |
178 |
アッテンボロー |
無能な司令官の下ではどんな有能も役立たない。 |
179 |
同盟軍オペレーター |
敵艦隊。我が第二艦隊に接近中! |
180 |
パエッタ |
第四艦隊、第六艦隊亡き今、数の上では圧倒的に不利だ。 |
181 |
ヤン |
閣下、全艦攻撃準備を! |
182 |
パエッタ |
あっ・・・ああ・・・・・・そうだった! |
183 |
ヤンM |
ラップ・・・。私は簡単にはやられない。 |
184 |
N |
残る敵を第二艦隊13,000のみとした帝国艦隊。旗艦ブリュンヒルト司令官室には再びメルカッツ提督が参上していた。 |
185 |
メルカッツ |
最早、勝利は確実です。 |
186 |
ラインハルト |
最後まで手綱を緩めるな。まだ何が起こるかわからない。 あの艦隊にあの男がいるとしたらな・・・。 |
187 |
キルヒアイス |
ヤン・ウェンリー准将。 |
188 |
ラインハルト |
ああ。そのとおりだ。 |
189 |
N |
だがそう言いながらも、その後常勝の英雄と言われたラインハルトは、ほとんど勝利を確信していた。 |