CHAPTER.04 兄・妹 | 台本リスト | CHAPTER.06 BKAの男

MONSTER CHAPTER.05 殺人事件
原作
浦沢直樹
上演時間目安
15分
総セリフ数
129
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※記者A〜Dはすべて一言二言だけ。[役名]のパートはたたみかけるように。


001
N
夜、テンマのアパート――――

何者かがけたたましくドアをノックしている。
深酒して熟睡していたテンマであったが、あまりに大きなその音に起こされて、玄関のドアを開けた。
002
テンマ
はい・・・・・・?
003
警官
Dr.テンマですね。失礼ですが、今夜はずっとご自宅に?
004
テンマ
え?あ・・・いや、朝方まで酒を飲んでて・・・・・・

何か?
005
警官
驚かれないでくださいね・・・・・・・・・
アイスラー記念病院のハイネマン院長、オッペンハイム外科部長、そしてDr.ボイアーが・・・・・・・・・


亡くなられました。
---
006
N
デュッセルドルフ・アイスラー記念病院――――

深夜にもかかわらず、病院の前には数十人の記者が詰め掛けていた。
007
[警官]
とにかく犯行現場は、警察以外立ち入り禁止にしていただかないと!!
008
[医師]
そんな事言われても、病院の運営に支障をきたします!!
009
[警官]
マスコミはとにかく中に入らないように!!
010
[医師]
入院患者を刺激するようなマネは困ります!!
011
[記者A]
それで、事故なんですか?殺人事件なんですか!?
012
[記者B]
院長が自宅、ほかの二人が病院で、同時に死んだんだぞ!!事件に決まってるだろ!!
013
[記者C]
毒殺だってうわさだぞ!!
014
[記者A]
あ!!アイスラー記念病院のドクターですね!?
015
N
警官に知らされて病院に向かったテンマが目的地に到着したのは、ちょうどそのときだった。
案の定、情報源を見つけた記者たちは、テンマに殺到する。
016
[記者D]
この事件に関して、何か情報はありませんかね!?
017
[テンマ]
どいてください!!ちょっと通して!!
018
N
テンマはその波をかきわけて、転がり込むように院内へ入った。
しかし、中でも刑事が医者に質問をしているなど、あわただしい雰囲気は変わらなかった。
019
刑事
それで?不審な人物は見ませんでしたか?
020
医師
ちょっと待ってください、刑事さん。今それどころじゃないんです!!

あ!Dr.テンマ!!
021
看護婦
(泣きながら)Dr.テンマ、院長たちが〜〜〜〜〜!!
022
テンマ
みんな、落ち着くんだ。救急のほうはとどこおりなく運営されているんだろうね!?
023
医師
そ・・・それが、その・・・・・・
こんな時にかぎって、急患がたてつづけに運びこまれて、当直のDr.シュテルン達はてんてこ舞いで・・・・・・
今も二件オペ待ち患者が・・・・・・
024
テンマ
わかった、僕も執刀に加わろう!!
025
医師
お願いします!!交通事故で頭部挫傷の患者を・・・・・・
026
テンマ
とりあえず読影室で写真を見せてくれ!

もう一件は?
027
医師
はい、脳卒中で倒れた患者が・・・・・・
028
N
と、そこへ捜査にあたっていた刑事が、テンマにも声をかけてくる。
029
刑事
あっ、ドクター、ちょっと捜査に協力願えませんか?
030
テンマ
今そんな場合じゃないんです!
031
刑事
でもね、初動捜査が肝心なんです!!院長に恨みを持つような人間に心あたりは?
032
N
刑事のその言葉にハッとする。
今まで、院長ら今回の事件の被害者たちが、自分に向けて発した汚い言葉の数々が、頭に浮かぶ。
テンマはそれらを振り払うように、読影室に急ごうとした。
033
テンマ
っ!!

どいてください!!今は急患のオペが先なんです!!
034
刑事
っと!!
035
N
しかし、そんなテンマをまた呼び止める声があった。
036
看護婦
Dr.テンマ!!

あの子達が・・・・・・・・・
あの双子の兄妹が・・・・・・・・・

どこにもいないんです。
037
N
アイスラー記念病院402号室。件の双子の兄弟の兄の病室へ駆けつけたテンマたち。
プレゼントが山と積まれたベッドサイドとは対照的に、ベッドの上はもぬけの殻だった。
038
医師
妹のベッドもカラなのか!?病院中捜したのか?
039
看護婦
捜しました!!十分捜しました、でも・・・・・・
040
テンマ
・・・・・・
041
テンマM
な・・・なんだ・・・・・・!?
院長たちの急死・・・・・・このコ達の失踪・・・・・・・・・

なんなんだ!?いったい何が起きたんだ!?
---
042
N(神父)
慈悲の心で、病気に苦しむ多くの人々に救いの手を差しのべた・・・彼の生前の業績を私達は永遠に讃えることでしょう。
さようならDr.ハイネマン。安らかに眠りたまえ。アーメン。
043
N
墓地。そこでは先日亡くなったハイネマン院長の葬儀がとり行われていた。
と、棺を前にひときわ大きな声を上げる女性がいる。故人の娘である、エヴァ・ハイネマンだ。
044
エヴァ
ウッウッ・・・・・・・・・
アウッアウッ・・・・・・

お父さま〜〜〜〜〜!!アアアアアアアア!!!
045
N
テンマに代わって新たに恋人になった医師が、エヴァを慰めようとする。が、
046
エヴァ
はなして!!

お父さまを返して!!お父さまをォ!!
アアアアアアア!!
047
N
葬儀は滞りなく終わり、沿道には参列者の列ができていた。
テンマは、同じく葬儀に出ていたDr.ベッカーと並んで歩いている。
048
Dr.ベッカー
なんともやりきれないなあ、Dr.テンマ。
049
テンマ
ああ・・・・・・
050
Dr.ベッカー
今まで院長の娘として、さんざんいい思いしてきたんだ。
それが突然、冠がとれて、ただの人になっちまったんじゃあ泣き叫ぶわなあ。
051
テンマ
こんな時になんてことを・・・Dr.ベッカー。
052
Dr.ベッカー
いやあ、失敬失敬。
053
ヴァイスバッハ警部
Dr.テンマですね。
054
N
そこへ、大柄の男が声をかけてきた。
055
ヴァイスバッハ警部
ノルトライン・ヴァーストファーレン州警察のヴァイスバッハ警部です。
056
テンマ
あ、ご苦労様です。
057
ヴァイスバッハ警部
このたびはとんだことで・・・・・・

えー、紹介しましょう、こちらは・・・
058
ルンゲ警部
BKA、ドイツ連邦警察のルンゲです。

天才医師のお噂はうかがっていますよ。
059
テンマ
そ・・・そんな、まだまだ若輩者です。
・・・ん?
060
N
そうテンマが言った瞬間、ルンゲの左手が空(くう)でカタカタと、パソコンのキーでもたたくかのような動きをした。
テンマは、その動きに疑問を持ったものの、別に気になることのほうをルンゲに尋ねた。
061
テンマ
あの・・・子供達の行方はまだわからないんですか?
062
ルンゲ警部
いや、それよりも院長以下三名の死因が判明しましたよ。
彼らの体内から硝酸系の毒物が検出されました。
063
テンマ
硝酸系・・・・・・というと、筋弛緩剤・・・
064
ルンゲ警部
その通り。お医者さんだけあって詳しい。
065
テンマ
しかし、そんなものをどうやって・・・?
066
ルンゲ警部
キャンディですよ。
067
テンマ
キャンディ?
068
ルンゲ警部
それぞれの死体のそばに、同じキャンディの包み紙が発見され、また胃の中の内容物からも同じものが検出されました。
どこでこのキャンディを三人が手に入れたのか、お心あたりないですか?
069
テンマ
知りませんよ、そんなこと。
それより子供達は・・・あの双子の兄妹の捜査は、どうなっているんですか!! ・・・?
070
N
ルンゲの手は相変わらず、テンマが喋るたびにカタカタと動いている。
071
ルンゲ警部
まあまあ。捜査の主導権は、州警察から我々BKAに移りました。ご安心ください。
072
ヴァイスバッハ警部
むっ!
073
ルンゲ警部
この事件、元をたどると、あの兄妹の両親が射殺された時からつながっている可能性もあります。
東ドイツから亡命し、両親を何者かに殺された子供達を収容した病院の院長らが、また殺されたわけですから、政治的なテロという線も考えられます。
あのコ達が大きなカギを握っているかもしれない。
074
テンマ
お願いします、なんとか捜し出して下さい。まだ治療の途中なんです。では。
075
N
テンマの背中を見送るルンゲとヴァイスバッハ。
076
ルンゲ警部
数日前、院長からチーフの座をはずされ、院長の娘との婚約も解消された・・・・・・
双子の兄妹担当の日本人医師か・・・・・・・・・
077
ヴァイスバッハ警部
しかしあの男は、病院内では患者の人望もあつく・・・あの夜も酒場で飲んでいて、アリバイが・・・・・・
078
N
その時ルンゲはまた、あの手の動きをしていた。
079
ヴァイスバッハ警部
あの・・・・・・ひとつよろしいですか?その手の動きは一体・・・・・・
080
ルンゲ警部
ん?・・・・・・ああ。

キーを叩いているんだよ。
081
ヴァイスバッハ警部
は?
082
ルンゲ警部
頭の中のフロッピーディスクに、すべての情報を入力している。
情報とり出しのキーを押せば・・・・・・・・・・・・
「そ・・・そんな、まだまだ若輩者です」
Dr.テンマは、私が天才呼ばわりしたのに対し、照れて言葉につまった。
とね。
083
N
一方、背を向け歩き出したテンマとDr.ベッカー。
Dr.ベッカーがチラリと両警部のほうを見やり、テンマに声をかける。
084
Dr.ベッカー
警察か・・・。お前、疑われてるんじゃないのか?
085
テンマ
疑われても仕方ないだけのネタが、僕にはあるからね。
086
Dr.ベッカー
気にすんなよ。俺もしつこく質問されたんだ。
087
テンマ
は―――――。なんだか疲れたなあ。
この事件のほとぼりが冷めたら、日本に帰ろうかと思うんだ・・・・・・
088
Dr.ベッカー
え!?
089
テンマ
研究心や野心を持って、このドイツまでやってきたけど・・・・・・・・・
一連の騒動のおかげで、人の命を救うっている医者の本分に立ち返れた気がするし・・・・・・
090
Dr.ベッカー
おいおい、寂しいこと言うなよ。
091
テンマ
疲れたんだ・・・・・・
なんだかとっても・・・・・・
---
092
N
そう言ったテンマであったが、翌日以降、患者や看護婦から辞めるな、辞めないでくださいと言われようになる。
Dr.ベッカーが流した話が広まったせいだろう。
テンマは、今日診た患者にもまた、熱心に慰留されていた。
093
看護婦
Dr.テンマ!!
094
テンマ
095
看護婦
理事長がお呼びです。
096
N
そこへ看護婦がテンマを呼びに来た。理事長室へ向かう二人。
097
看護婦
今、後任人事のための理事会がおこなわれているんです。
今まで主要なポストは院長派閥で占められていたから、相当な人事粛清があるみたいなんです。
Dr.エッケナーはバイエルン州の小病院に飛ばされるっていうし・・・・・・
098
テンマ
そう・・・・・・
099
看護婦
あの、Dr.テンマ・・・・・・理事長に何を言われてもがんばって下さい!!
この病院をやめないでください!!
100
テンマ
・・・・・・
101
看護婦
私達も応援してますから!!やめないで下さい!!
102
N
テンマはその心強い声援を背中に受け、理事長のいる会議室へと入室した。
が、テンマを待っていた理事長の言葉は意外なものだった。
103
テンマ
・・・・・・は?
104
N(理事長)
もう一度言う。私は実力本位だ。Dr.テンマ・・・・・・・・・
君を外科部長に任命する。
105
N
廊下に出たテンマはひとりごちる。
106
テンマ
なんて人生だ・・・・・・
107
テンマM
院長の命令にさからって、脳神経外科チーフの座からはずされ、エヴァとの婚約も解消になり・・・・・・
ただの医者として出世コースなんか関係ない道を歩いていこうと決めた矢先に・・・・・・
108
テンマ
ク・・・・・・クックックッ・・・

ハッハッハッ・・・・・・なんて・・・・・・なんて人生だ!!

ハッハッハッ!!ハッハッハッハッ!!!
---
109
エヴァ
呼び出したりしてごめんなさい。
110
N
デュッセルドルフ市内のカフェ――――

テンマの対面には、エヴァ・ハイネマンが座っていた。
111
エヴァ
外科部長に任命されたんですってね。本当によかった!!心から、そう思ってるのよ。
112
テンマ
・・・ありがとう。
113
エヴァ
ケンゾー・・・・・・お父さまのお葬式の時、泣いている私をなぐさめてくれようとしたわね。
114
テンマ
あ・・・・・・いや。
115
エヴァ
うれしかった・・・・・・
116
N
エヴァは自分の手をテンマの手に重ねる。
117
エヴァ
あたし達、いろいろあったけど・・・・・・・・・・・・やり直したいの。
118
N
しかしテンマは、その手を解き席を立った。
119
エヴァ
ケンゾー!!
120
N
店を出るテンマ、あわてて追いかけるエヴァ。
121
エヴァ
ケンゾー!!
お願い!!私が悪かったわ!!やり直したいのケンゾー!!

ケンゾー!!
122
N
涙を目にためて必死に訴えかけるエヴァ。だが、テンマが振り返ることはなかった。
皮肉にもこれは、以前エヴァがテンマに対してした行為の、まったく逆の構図になっていた。
123
エヴァ
ケンゾ―――――!!!
124
N
最後に、テンマの背中に大きく叫びかけるエヴァ。

1986年冬のことであった―――――
---
125
医師
脊髄腫瘍で入院している患者なんですが・・・・・・急激に麻痺が進行してしまったようなんです・・・・・・・・・・・・
126
テンマ
わかった、私が執刀しましょう。
127
医師
お願いします、外科部長!!
128
テンマ
オペの準備をしてください!!
129
N
1995年、ドイツ、デュッセルドルフ―――――

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