CHAPTER.06 BKAの男 | 台本リスト | CHAPTER.08 処刑の夜

MONSTER CHAPTER.07 「モンスター」
原作
浦沢直樹
上演時間目安
15分
総セリフ数
100
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001

N

ノイエライン総合病院―――――

BKAの刑事ルンゲがテンマの立会いの下、病室でユンケルスの尋問を行っていた。

002

ルンゲ警部

もうお前が喋れるようになっているのはわかっているんだ。
過去二年間に起きた四件の中年夫婦殺人事件・・・・・・そのうち三件の現場近くで、おまえは目撃されているんだがね。
どうなんだ?アドルフ・ユンケルス。

003

ユンケルス

・・・・・・・・・。

004

テンマ

・・・・・・・・・。

005

ルンゲ警部

ふん、まあいいだろう。おまえが錠前破りだということはわかっている。お前の仕事はただ鍵を開けることだけだ。
あれだけ見事に首を横一文字に切り裂くようなマネは・・・・・・おまえにはできない。

006

ユンケルス

・・・・・・・・・。

007

ルンゲ警部

ということは、お前以外に、複数の実行犯がいたことになる。
私の考えでは、最低三人必要だ。厳重な鍵を開け、中年夫婦二人を無抵抗の状態で殺害するためにはな。
そのうちナイフ使いの男は、リストアップをほぼ済ませてある。お前の仲間をその中から絞るのは時間の問題だ。

お前が喋ろうが喋るまいがね。

008

ユンケルス

・・・・・・・・・。

009

ルンゲ警部

だが、私が本当に聞きたいのはそんなことじゃない。

010

テンマ

011

ルンゲ警部

なんのためにドイツ全州にまたがり四件もの・・・それも子供のいない中年夫婦ばかりを殺害したのか・・・・・・
盗みのためなどとは言わせないぞ。
金品は盗まれていたが、あんな小額を三人で分けたのでは、この犯罪はわりにあわないな。

012

テンマ

・・・・・・?

013

ルンゲ警部

どうだ?ひとつ司法取引といかないかね。ここで証言すればお前は罪を免れる。

お前たちにこの仕事を依頼したのは誰だ?

014

N

その時、今まで話を聞いているのか聞いていないのか、下を向いてぼんやりとしていたユンケルスの目がカッと見開かれ、唸りはじめた。

015

ユンケルス

う・・・・・・

016

テンマ

!?

017

ユンケルス

う・・・・・・う・・・・・・あ・・・
うあああああああああ!!

018

テンマ

ユンケルスさん、もういい、もういいんだ!!

019

ユンケルス

ああああああああ!!

020

N

突然錯乱したように暴れだしたユンケルスを、押さえつけるテンマ。

021

テンマ

ルンゲ警部!取り調べはここまでにしていただきます!!

022

ルンゲ警部

いや、もうひとしぼりだ。

023

テンマ

・・・・・・!

024

N

テンマはルンゲのほうに向き直り、はっきりといった。

025

テンマ

出て行ってください!!これは、主治医の命令です!!

026

ルンゲ警部

・・・ふむ。まあいいでしょう。日をあらためましょう。
ただし、毒殺されたり失踪したりしないよう、見張りはしっかりとつけさせてもらいますよ。

027

テンマ

な・・・・・・

028

ルンゲ警部

Dr.テンマ、あなたのまわりでは、なぜか偶然いろいろなトラブルが起きるようですから。

029

テンマ

な・・・何が言いたいんですか!!

030

ルンゲ警部

ジョークですよ。では失礼。

031

N

ルンゲは背中越しにそう言ってさっさと出て行った。
残されたのは、顔をおさえて泣き伏せるユンケルスと、呆然と立ち尽くすテンマであった。

---

032

N

ユンケルスの病室の前には見張りの警官が立っている。
と、病室が開き、ユンケルスの乗った車椅子をテンマが押して出てきた。

033

警官

あ!!コラ、どこへ行く!!

034

テンマ

散歩ですよ。

035

警官

勝手なマネをされては困ります!!

036

テンマ

患者だって気晴らしが必要なんです。庭に出るだけですよ。心配ならあなたも一緒にどうですか?

037

警官

・・・・・・・・・。どうぞ。

038

N

外に出た二人は、元気にボールで遊ぶ子供たちを眺めていた。
テンマは芝生の上にすわり、話しかける。

039

テンマ

暖かくて気持ちのいい日だな。

もう喋れるんだろ?

040

ユンケルス

・・・・・・・・・。

041

テンマ

こういう日は、本当に生きててよかったと思うよ。
たまにこういうときがないと、やりきれなくなるんだ。毎日毎日人の生き死にを目の当たりにしているとね・・・・・・
だから医者は、出世や金や自分の研究のことだけ考えているほうが楽なのさ。

僕も以前はそうだった・・・・・・
出世して自分のやりたい研究をする・・・・・・、手術を成功させるのは地位を固める手段だ・・・ってね。

でも、ある男の子の手術がきっかけで、僕は変わったんだ。
双子の兄妹のお兄ちゃんでね、ヨハンという名前だった。
頭部を銃撃されたその子を助けることで、僕は医者の本分に立ち返ることができたんだ。

人の命の重さはみんな一緒だ。医者はその命を助けるのが仕事だ・・・ってね。

042

ユンケルス

・・・・・・・・・。

043

テンマ

人間はやり直せる。今からでも遅くない・・・・・・

044

N

すると、ユンケルスが口を開いた。

045

ユンケルス

先生・・・・・・

先生と俺、あんまり年違わないけど・・・・・・・・・、先生・・・・・・親父みたいだ。
先生は俺の命を救ってくれた。俺の親みたいな感じがする・・・・・・

046

テンマ

いきなりでかい子供ができたもんだな。

047

ユンケルス

俺・・・・・・子供の時、欲しかったんだ、からくり時計・・・・・・・・・・・・

048

テンマ

049

ユンケルス

あの・・・・・・こう・・・・・・ちょうどの時刻になると、ピョコピョコくるみ割り人形が飛び出てくるやつ・・・・・・
毎日毎日、それが欲しくて時計屋のショウウィンドウに顔ひっつけてた・・・・・・・・・・・・

一番最初にやった錠前破りが、その店さ。
その時はすぐに捕まって、時計は手に入らなかった。でも、それから、錠前破りが俺の仕事になった。

050

テンマ

・・・・・・・・・。

051

ユンケルス

最初はあの時計が欲しかっただけなんだ・・・・・・

(泣きながら)ただ、あれが欲しかっただけなのに、俺は・・・・・・

052

N

大粒の涙をこぼすユンケルスを見て、テンマは表情を和らげた。

053

テンマ

全部話すんだ。警察に全部話して、一からやり直すんだ。

・・・ん!?

054

N

そう、テンマが言った途端、ユンケルスの様子が急変した。
手で口を押さえ、目を見開き、近づかなくても見えるくらいはっきりと震え始めたのだ。
ユンケルスはそのまま震えた声でポツポツと声を出す。

055

ユンケルス

殺された・・・・・・

仲間全部殺された・・・・・・

056

テンマ

誰に!?

057

ユンケルス

あ・・・あ・・・・・・

058

テンマ

君の言っていた・・・・・・「モンスター」にか?

059

N

しかしそれ以降、ユンケルスが口を開くことはなかった。

---

060

Dr.ベッカー

今日こそしっかりモノにしろよ!!俺がせっかくセッティングしたんだからな!!
なんてったって、州議会議員の娘だぜ。才色兼備ってのは、ああいうのを言うんだな、いいぞォ〜〜。

061

N

ベッカーが自分の胸の辺りに手を添えて、寄せるようなマネをしてみせる。
テンマとDr.ベッカーは、夜に入ろうとしているデュッセルドルフの市街地を歩いていた。

062

テンマ

ははは・・・・・・会ってみなきゃわからないよ。
でも・・・そうだな、そろそろ君の言う通り身をかためなきゃ・・・・・・

063

Dr.ベッカー

そうだろ?そうだよ、絶対そうだよ。
お前ほどの地位にいながら女房がいないようじゃ・・・・・・って、あ・・・おい!

064

N

テンマが突然、道なりにあったアンティークショップのショウウィンドウを覗き込む。

065

ユンケルス(回想)

ちょうどの時刻になると、ピョコピョコくるみ割り人形が飛び出してくるやつ・・・・・・・・・

066

テンマ

ユンケルスさんが言ってたのって、これだ!
あの、すみません!!このショウウィンドウの時計なんですけど!!

067

N

テンマは、昼間ユンケルスが言っていた時計まさにその物を見出し、嬉々として店内に駆け込む。
待ち合わせの時間に遅れることを心配するDr.ベッカーなどお構いなしだった。

---

068

N

その頃、アイスラー記念病院―――――

病室のユンケルスは、天井を見つめながらテンマの言葉を反芻していた。

069

テンマ(回想)

人生はやり直せる。今からでも遅くない。

070

N

何か決意したように体を起こす。

071

ユンケルス

おまわりさん・・・・・・、見張りのおまわりさん・・・・・・。そこにいるんだろ?
全部話すよ。そのかわり、Dr.テンマも呼んでくれないか。

072

N

そうドア越しに告げてから、ドアを開く。
しかし、そこに警官の姿はなかった。

073

ユンケルス

あれ?おまわりさん―――?おま・・・・・・!

074

N

そうして視線を足元に下ろしたユンケルスが見たものは―――――

---

075

N

テンマは、Dr.ベッカーのセッティングしたという会食の時間であるにもかかわらず、病院にいた。
その手には、先のからくり時計が入った包みがある。
看護婦に、病室に行くと一言断って、テンマはユンケルスのところへ向かった。
ユンケルスの病室のある階に着き、廊下を笑顔で歩いていたテンマだったが、その表情が一変する。

076

テンマ

あっ!!

077

N

ユンケルスの見張りについていた警官が、首だけ壁にもたせ掛けるような形で仰向けに倒れていたのだ。

078

テンマ

おい、どうした!!しっかりし・・・・・・・・・・・・死んでる・・・・・・

079

N

遺体の周囲を見ると、キャンディの包み紙が落ちていた。
九年前に院長らの殺害に使われた"凶器"が頭をよぎる。

080

テンマ

キャンディの包み・・・・・・はっ!
ユンケルスさんっ!!

081

N

病室に飛び込むと、そこにユンケルスの姿はない。
テンマは、買った時計を投げ捨てて走り出した。

廊下の端の、非常階段に通じる扉が半開きになっている。
踊り場に飛び出たテンマが下を見ると、裏庭の芝生の上を裸足で駆け抜けるユンケルスの後姿がちらりと見えた。

082

テンマ

ユンケルスさん!!

083

テンマM

あの時と同じだ!!
キャンディによる毒殺!!僕の患者の失踪・・・・・・
何もかも・・・九年前のあの時と一緒だ!!

084

N

テンマは必死で追いかける。
しばらく走ったところで、ユンケルスは建設途中で床と柱しかないビルディングの中に入った。
テンマも呼びかけながらそれに続く。

085

テンマ

ユンケルスさん!!私です、テンマです!!

086

N

と、どこにいるのかはわからないが、ユンケルスの声が返ってきた。

087

ユンケルス

先生・・・・・・来ちゃだめだ、先生!!

088

テンマ

大丈夫。病院へもどろう、ユンケルスさん。大丈夫だから。

089

N

テンマがやさしく呼びかけるが、ユンケルスの声はひっ迫していた。

090

ユンケルス

だめだ先生、来ちゃだめだ!!
こいつを見ちゃだめだ、先生!!

091

テンマM

こいつ?

092

ユンケルス

仲間を殺したのはこいつだ!!先生も殺される!!

093

N

テンマはやっとユンケルスの姿を見つける。しかしその奥にもう一人、誰かがいた。
電気がないために顔は見えないが、まっすぐと立つ男の姿が。

094

テンマ

だ・・・誰だ!?

095

ユンケルス

だめだ!!先生、来ちゃだめだ〜〜〜〜〜!!

096

ヨハン

お久しぶりですね、先生。僕ですよ。

097

テンマ

え?

098

N

男が口を開く。半狂乱状態のユンケルスとは対照的に、とても落ち着いた若い青年のような声だった。

099

ヨハン

九年前、先生は僕の命を助けてくれたでしょ。もう忘れちゃったかな、あの時の双子のことなんて・・・・・・

100

テンマ

・・・・・・・・・ヨハン・・・・・・

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