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浦沢直樹 |
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20分 |
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167 |
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キャラクター紹介へ |
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001 |
N |
ドイツ、ハイデルベルク――――― ハイデルベルク・ポスト新聞社――――― 夜も更けてきて、オフィスには男がひとりと女がひとり。 その女性職員も、既に帰り支度を整えていた。 |
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002 |
女性職員 |
マウラーさん、ここんとこお風呂入ってないでしょ!! |
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003 |
マウラー |
入ってるよ。 |
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004 |
女性職員 |
ウソだ!!においますよ。それが証拠にもう三日間同じシャツを着てるじゃないですか!! 隣のデスクになった時に、約束したはずですよ!!二日に一度はお風呂に入るって!! |
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005 |
マウラー |
人が食事中にうるさいね、おまえは!!そんなことばっかり言ってるから嫁のもらい手がねえんだよ!! |
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006 |
女性職員 |
まっ、失礼ね!!こんな職場で一日中こきつかわれてたら、彼氏なんかできるわけないでしょ!! |
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007 |
マウラー |
ゲプッ |
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008 |
女性職員 |
あ〜〜〜〜もういや!! ああ、そういえば応接室にお客さん来てますよ。あたしは帰りますから、マウラーさん、自分でお茶入れてください!! |
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009 |
マウラー |
客?こんな時間にか? |
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010 |
女性職員 |
あの人もお風呂入ってないわ。マウラーさんと同じくらいにおうもの!! |
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011 |
マウラー |
なーんだ、そりゃ? |
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012 |
女性職員 |
あと!タバコの火の始末、絶対気をつけてくださいよ!! |
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013 |
N |
そう捨て台詞のように言い残すと、女性職員はそそくさとオフィスを後にした。 |
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014 |
マウラー |
はいはいはい。えっこらせっと!だーいたい、誰のせいで風呂入ってねえと思ってんだ。 どいつもこいつもとっとと帰りやがって。定刻通り働いたって、いい記事なんかできやしねえってんだよ。 こんなうだつのあがらねえ新聞社でもなんとかやっていけてるのは・・・・・・ このマウラーさまのおかげだってことにちっとも気づいてねえんだから、まったく・・・・・・ |
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015 |
N |
愚痴りながらコーヒーを用意し、応接室へ向かったマウラーは中に男の姿をみとめる。 |
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016 |
マウラー |
はいはい、ど――もお待たせしました。どういったご用件で・・・・・・ |
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017 |
テンマ |
あ!テンマと申します。 どうかご協力をお願いします!!緊急を要するんです!! |
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018 |
N |
やってきたマウラーに挨拶した男は、よれたスーツに緩んだネクタイ、そして無精ひげ。 |
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019 |
マウラー |
(小声で)なるほど・・・こいつァうす汚えや。 |
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020 |
テンマ |
こちらの警察には相手にされず、追い返されました!!この新聞社が頼りなんです!! |
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021 |
N |
席に座ったマウラーに、テンマは事の次第を全て話した。 |
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022 |
マウラー |
そうかい。あんた医者なのか。そうは見えねえがな。 |
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023 |
テンマ |
・・・・・・・・・。 |
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024 |
マウラー |
(咳払い)・・・・・・てことは、ドクター、あんたの言いたいことはこういうことか? ドイツ各地で起きてる四件の中年夫婦連続殺人事件の次のターゲットが、ここハイデルベルクにいる。 その中年夫婦には養子がいて、その娘が20歳になったら、殺人犯が連れ去りにやってくる。 で、その時養父母は必ず殺される・・・・・・と。 だが、その養父母も娘もどこの誰だかさっぱりわからねえ。どこの誰かもわからねえ一家を守りてえと・・・・・・? |
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025 |
テンマ |
はい。 |
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026 |
マウラー |
グエッヘッヘッ、そりゃあ警察も追い返すわな!!ミステリーの読みすぎだよ!誇大妄想もいいとこだ! ハッハッハッハッ!ゲホッゲホッ!! |
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027 |
テンマ |
笑いごとじゃないんです!!信じてください!! |
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028 |
マウラー |
はぁ・・・。肝心なとこがすっかり抜け落ちてるんだよ、あんたの作り話は。 どこの誰かもわからねえ男で、10歳にしてすでに連続殺人鬼だ? バカバカしい!!そんなもん、三流タブロイド紙だって記事にしねえよ!! |
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029 |
テンマ |
記事にしてほしくて来たんじゃありません!! その双子の兄妹が私の病院を抜け出してから、ミュンヘンに兄が姿を現すまで、半年以上の空白期間があるんです。 |
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030 |
マウラー |
だからどうした? |
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031 |
テンマ |
私の考えでは、病院を抜け出したあと、兄妹はそろってこのハイデルベルクに来たんです!! |
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032 |
マウラー |
あんたの考えではな。 |
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033 |
テンマ |
そして二人とも、現在の妹の養父母に養われた!!しかし兄の方は短期間で、ここも逃げ出した。妹を残して!! |
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034 |
マウラー |
あーあーあー、あんたの考えはよ〜〜〜くわかった。小説にでもしな。売れねえだろうがな。 |
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035 |
テンマ |
養父母は、いなくなった兄の捜索願いを出している可能性がある!!そして、それが新聞記事になっているかもしれない!! 九年前のこちらの新聞を調べさせてください。 頼みます!!お願いだ!!これ以上犠牲者を出しちゃいけないんだ!! |
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036 |
N |
テンマの必死の頼みをよそに、マウラーは応接室を出て行き、別の部屋に入っていく。 |
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037 |
テンマ |
お願いしま・・・!あ・・・・・ |
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038 |
N |
マウラーの後を追ってテンマが飛び込んだのは、膨大な量のファイルが入った本棚がこれでもかと並んぶ部屋だった。 |
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039 |
マウラー |
ウチの社長、OAアレルギーでな・・・。マイクロフィルムだのぱそこんだのにはからきし縁がねえ。 |
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040 |
N |
そう言って奥から出てきたマウラーは、抱える大量のファイルを机の上に置いた。 |
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041 |
マウラー |
これが当時の縮刷版。これが原稿のファイル。それと、これがボツ原稿と資料のファイルだ。 |
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042 |
テンマ |
あ・・・・・・、ありがとうございますっ!! |
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043 |
N |
マウラーは、頭を下げるテンマの横を通り抜ける。 |
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044 |
マウラー |
ふん、日本のオジギってやつか。どういたしまして。 言っとくが、あんたの言ってることを信じたわけじゃねえぜ。くだらねえ話にかかずらわってる時間がもったいねえだけだ。 見て納得したら、とっとと帰ってくれ。 |
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045 |
N |
マウラーを見送ると、テンマはファイルの山に向き直った。 |
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046 |
テンマ |
頼む・・・・・・。頼むから見つけさせてくれ!! |
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047 |
N |
ドイツ、ハイデルベルク大学――――― |
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048 |
クララ |
おっはよ――、ニナ!! |
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049 |
ニナ |
あっ、おはよ――。 |
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050 |
ベアーデ |
よかった!!ニナ、元気そうじゃない。 |
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051 |
クララ |
急に失神して倒れちゃうんだもん、びっくりしたよ〜〜〜〜!! |
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052 |
ベアーデ |
あたしたちが紹介した男がよっぽど気に入らなかったのね〜〜〜〜。 |
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053 |
ニナ |
そ・・・そんなことないよ。急に気分が悪くなっただけ。一日休んだらもう元気よ。彼に謝らなきゃ。 |
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054 |
クララ |
あー、いいのいいの、あいつのことはもう気にしなくて。 |
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055 |
ニナ |
え? |
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056 |
クララ |
あのオットー・フーベルマンて奴、よく聞いてみたら、ニナの白馬の王子様じゃなかったのよ。 |
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057 |
ニナ |
え・・・ |
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058 |
ベアード |
彼、ニナのパソコン通信に「君を花で埋めつくすために生まれた」なんてメッセージ入れてないって言うのよ。 |
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059 |
ニナ |
そ・・・そう。 |
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060 |
ベアード |
良かったじゃない。ニナの白馬の王子様の夢はまだ消えたわけじゃないのよ? |
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061 |
ニナ |
あ・・・もういいのよ、あれは・・・・・・ |
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062 |
クララ |
とかなんとか言っちゃって。明日はニナの誕生日でしょ。ひそかに期待してるんじゃないの? |
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063 |
ベアード |
こ〜〜〜んな花束もって現れるかもよ、王子様が! |
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064 |
クララ |
君の20歳の誕生日のプレゼントはこの僕のキッスだよ〜〜〜〜。 |
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065 |
ニナ |
やだもぉ――!!クララもベアードも!! |
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066 |
クララ |
キャキャキャキャ!! |
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067 |
N |
その後、ニナはスクールカウンセラーのガイテル先生のもとを訪れていた。 |
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068 |
ガイテル先生 |
・・・・・・ということは、君が失神したのはその紹介された男性が原因じゃなく、そのはるか後方にたたずんでいた男性を見たからだと言うんだね? |
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069 |
ニナ |
ええ・・・・・・。 |
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070 |
ガイテル先生 |
どんな男性だった? |
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071 |
ニナ |
一瞬見かけただけで、はっきりとは・・・・・・ |
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072 |
ガイテル先生 |
では、どんな感じだった。見たときの印象は? |
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073 |
ニナ |
すごく・・・懐かしいような・・・・・・ |
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074 |
ガイテル先生 |
ほお・・・・・・ |
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075 |
ニナ |
でも・・・違うな・・・・・・なんていうか・・・うまく言えないけど・・・・・・ |
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076 |
ガイテル先生 |
けど? |
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077 |
N |
ニナがしばし黙る。そのときのことを思い出しているのだろうか。 ガイテルは、ニナ手が小刻みに震えているのに気づく。 |
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078 |
ガイテル先生 |
いいよニナ、無理しなくて・・・ |
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079 |
ニナ |
"絶対悪"・・・・・・ |
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080 |
ガイテル先生 |
え? |
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081 |
ニナ |
う・・・うまく言えないけど・・・・・・そう、あの悪夢を見たときの感じと同じような・・・・・・ "絶対悪"っていうのが一番近い感じ・・・・・・ |
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082 |
ガイテル先生 |
ふむ。"絶対悪"とは、また宗教的な話になってきたな。私はただのカウンセラーで、宗教学者ではないからね。 |
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083 |
ニナ |
私も教会に通っているわけではありませんけど・・・・・・。 もう一度その人に会えば、その答えがはっきりするような・・・・・・ |
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084 |
ガイテル先生 |
失われた10歳以前の記憶もよみがえるような気がする。そうだね、ニナ? |
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085 |
ニナ |
はい・・・・・・。 |
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086 |
ガイテル先生 |
それもひとつの手ではあるが・・・ |
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087 |
ニナ |
え? |
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088 |
ガイテル先生 |
そんなことを重荷だと思う必要はないんじゃないかな。無理をせず、これから先のことを考えるのも大切だよ。 大丈夫!君にはちゃんとしたご両親もいる。連邦検察官目指して学業も順調だ。 合気道のサークルで思いっきり汗を流せば、不安感なんて吹っ飛ぶさ! |
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089 |
ニナ |
・・・はい・・・・・・。 |
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090 |
N |
同日朝、ハイデルベルク・ポスト新聞社――――― |
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091 |
マウラー |
(伸びをして)ファアアア〜〜。 |
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092 |
男性記者 |
あれ、マウラーさんまた泊り込みですか? |
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093 |
マウラー |
おお、原稿あがったのかよ。 |
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094 |
男性記者 |
デスクに置いときましたよ。見といてください。 |
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095 |
マウラー |
またしみったれた記事だったらタダじゃおかねえぞ〜! |
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096 |
男性記者 |
ハハ、書き直しはご勘弁・・・・・・ あっ、そうそう、資料室、あの男に使わせたのマウラーさんですか? |
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097 |
マウラー |
あの男? |
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098 |
男性記者 |
ええ、何者だって聞いたら、マウラーさんに許可受けたって・・・・・・ |
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099 |
マウラー |
あっ、あいつまだいたのかァ!! |
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100 |
男性記者 |
とり憑かれたように調べものしてて、なんだか不気味でしたよ。 |
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101 |
マウラー |
ったく! |
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102 |
N |
呆れた顔をしてマウラーは、資料室へ行くと乱暴にドアを開ける。 |
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103 |
マウラー |
おいコラ、いい加減に・・・・・・ん? |
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104 |
N |
中ではテンマがイスから落ちて横向きに倒れていた。 |
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105 |
マウラー |
お・・・おい、大丈夫か!?おい!!ドクター!! |
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106 |
N |
昼前頃、ハイデルベルク市内、ハイデルベルク・ポスト新聞社より程近いレストランで男二人が食事をとっている。 |
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107 |
マウラー |
ホラ、食いな。 |
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108 |
テンマ |
すみません・・・・・・ |
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109 |
マウラー |
医者の不養生ってのは、こういうのを言うんだな。何日もろくに食わずに徹夜仕事してりゃあな。 |
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110 |
N |
医者として、不規則な生活や徹夜仕事にも慣れているはずのテンマがこうなるとは、相当な無理をしていたのだろう。 それでも食事になかなか手をつけようとしないテンマに、マウラーが声をかける。 |
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111 |
マウラー |
食えよ。人間食わなきゃいい仕事はできねえぜ。 |
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112 |
テンマ |
・・・はい。 |
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113 |
マウラー |
うまいだろ。俺ァ、朝飯はいつもこの店だ。 |
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114 |
テンマ |
家には帰らないんですか? |
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115 |
マウラー |
コノ「クソ忙しいのに家なんか帰ってられるか!! |
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116 |
テンマ |
ご家族は・・・? |
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117 |
マウラー |
いねえよ。女房が出ていっちまったからよ。 |
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118 |
テンマ |
え・・・? |
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119 |
マウラー |
仕事仕事で追いまくられて、気がついてみりゃ女房は娘連れて実家に帰っちまった。 医者の不養生と同じことよ。外の事件追い回してたら、家ん中の事件には全然気づかねえときた。 |
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120 |
テンマ |
・・・・・・。 |
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121 |
マウラー |
あんたも見たところ一人もんだな。 |
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122 |
テンマ |
え・・・ええ。 |
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123 |
マウラー |
所帯なんて持つもんじゃねえぞ。一人の方が気楽だ。そうやってフラフラしてられんのも、一人もんの特権だ。 |
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124 |
テンマ |
・・・・・・・・・。奥さん、迎えに行く気はないんですか? |
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125 |
マウラー |
あ!?なんでだよ!!おん出てったのはむこうだ!!なんで俺の方が迎えに行くんだよ!! |
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126 |
テンマ |
いえ・・・・・・、仕事にかまけて家庭をかえりみなかったことを、悔やんでるみたいだから。 |
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127 |
マウラー |
ふ・・・ふざけたこと言ってんじゃねえ!! 男は仕事が第一だ!!この仕事を理解できねえ女房なんか、出てってもらって結構!! |
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128 |
テンマ |
すみません、よけいなことを・・・ |
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129 |
マウラー |
そうだよ、よけいなことだよ。 |
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130 |
テンマ |
あ・・・あの、それともうひとつ。 |
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131 |
マウラー |
なんだよ? |
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132 |
テンマ |
タバコ吸いすぎですよ。医者として忠告します。もう少し控えたほうが・・・・・・ |
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133 |
マウラー |
ああ!!大きなお世話だって言ってんだろ!!女房と同じこと言ってんじゃねえ!! |
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134 |
テンマ |
奥さんも!・・・あなたの体気づかってたんですよ。 |
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135 |
マウラー |
・・・・・・チッ・・・大きなお世話だ・・・。 |
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136 |
N |
夜。フォルトナー家――――― ニナはまだ帰っておらず、ニナの父と母がセーターを見ながら話をしている。 |
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137 |
ニナの父 |
ニナの誕生日プレゼントかい? |
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138 |
ニナの母 |
ええ、やっと編みあがったの。 |
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139 |
ニナの父 |
昔はその半分くらいのセーターだったのにな。 |
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140 |
ニナの母 |
あなた・・・・・・本当に言うんですか? 20歳の誕生日に・・・私達の娘じゃないってことを・・・。私、このままでも・・・・・・! |
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141 |
ニナの父 |
・・・・・・そうだな。そんなこという必要ないな・・・・・・。 ニナは私達の娘だもんな。 |
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142 |
N |
そこへ、明るく元気な声が入る。 |
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143 |
ニナ |
ただいまー!! |
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144 |
ニナの母 |
あ、おかえり。 |
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145 |
ニナ |
おなかすいた――!! |
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146 |
N |
無邪気なニナの姿を見た二人は、黙って、ただ微笑みあった。 |
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147 |
ニナ |
先のことを考えろか・・・。ガイテル先生の言う通りかもね・・・・・・・・・ |
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148 |
N |
着替えるために自室に入ったニナは、いつものようにパソコンを立ち上げつつ、カウンセリングの時のことをかんがえていた。 立ち上がったパソコンに向かいキーを叩くと、 |
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149 |
ニナ |
メールだ・・・。 「I will see you at 7 o'clock in the evening on your birthday tomorrow at Heidelberg Castle. (明日誕生日の夜七時、ハイデルベルク城で会おう)」・・・・・・ 明日・・・ハイデルベルク城で・・・・・・・・・ |
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150 |
N |
三通目の差出人不明メールが来ていた。 |
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151 |
マウラー |
あ〜〜〜、まったくもう!! |
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152 |
N |
人気のないハイデルベルク・ポスト新聞社に、マウラーの声が響く。空が白んでくる時間で、他はまだ出社していない。 そんな社内で、テンマとマウラーが顔を突き合わせて例のファイルの山と格闘していた。 |
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153 |
マウラー |
このクソ忙しいのに、あんたにつき合わされて、まる二日スクラップとにらめっこだ!! んーもうあきらめた方がいいんじゃないのか? 言っとくが、俺がこうして手伝ってるのは、別にあんたの話を信じたからじゃないぜ。 作り話だってこと、早いとこ証明して、とっとと帰ってほしいからだ!! ふ―――・・・・・・・・・なあ、ドクター・・・・・・。 もし・・・もしだぜ・・・・・・俺がその・・・・・・女房迎えに行ったら・・・・・・その・・・・・・ 女房、帰ってくると思うか? |
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154 |
N |
テンマはスクラップブックを読む手を止め、顔を上げる。 |
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155 |
テンマ |
ええ。"タバコをやめたらね。" |
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156 |
マウラー |
けっ!! |
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157 |
N |
微笑みながらファイルに目を戻す。が、次のページをめくった瞬間、テンマの表情が一変した。 |
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158 |
テンマ |
あ・・・・・・! |
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159 |
マウラー |
どうした? |
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160 |
テンマ |
あった! |
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161 |
マウラー |
あ? |
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162 |
テンマ |
"11歳の少年失踪。誘拐の可能性もあるが、今のところ脅迫など犯人からの連絡は一切なし・・・・・・・・・" ネッカー通り16番地、フォルトナーという人が捜索願いを出している・・・・・・1986年10月!! |
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163 |
マウラー |
やーれやれ・・・・・・偶然てなァあるもんだな。こっちにもその資料があるはずだよ。 えー、あったあった、これだ。・・・・・・ん? ありゃ? |
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164 |
テンマ |
ど・・・どうしたんですか!? |
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165 |
マウラー |
あんた、その犯人は、妹が20歳になったら迎えに行くって行ってたな。んで、その兄妹は双子だって言ってたな。 この記事の男の子がその双子の兄なら、ホラ、ここに生年月日が書いてあるぜ。 今日がその双子の誕生日だよ。 |
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166 |
テンマ |
・・・・・・!! |
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167 |
N |
思わぬタイミングで迎えた運命の日。これから何が起こるのか、何が起ころうとしているのか。 テンマはただ戦慄するのであった。 |