CHAPTER.11 失踪記事 | 台本リスト | CHAPTER.13 惨劇の館

MONSTER CHAPTER.12 戦慄の誕生日
原作
浦沢直樹
上演時間目安
15分
総セリフ数
138
LINK
キャラクター紹介へ




001

ニナ

あっ、もしもしパパ?あたし・・・・・・。うん、今アルバイト終わったとこ。
今からちょっと友達に会って帰るから。・・・場所?ハイデルベルク城で・・・・・・

002

ニナの父

そうか・・・・・・ママが誕生パーティの準備してるぞ。早く帰って来るんだぞ。

003

N

ニナからの電話が終わり、受けていたその父親は受話器を置いた。

004

ニナの父

ニナからの電話だった。友達に会ってから帰るそうだ。

005

N

ケーキを作っている妻に向かってそう報告して、イスに座り独り言のように言う。

006

ニナの父

ああ、友達と会ってから帰るとさ。やれやれ、どんな友達なんだか・・・・・・

007

N

一方ニナは、電話をかけた公衆電話ボックスを出て単身、ハイデルベルク城へと歩を進めていた。

008

ニナM

「明日の誕生日の夜七時、ハイデルベルク城で会おう。」というメール。
これでわかるかもしれない・・・・・・、あたしの10歳以前の記憶がよみがえるかもしれない・・・・・・。
「これから先のことを考えるのも大切だよ。」ガイテル先生はそう言った。
でも・・・、あたしは知りたい・・・・・・。本当のあたしを・・・・・・。

009

N

そんな決意を胸に、ニナはバッグの肩ヒモをかたく握りなおすと、まだ遠い目的地に向けて足を速めた。

その頃、運命の日が今日だということを知ったテンマとマウラーは、車でフォルトナー家へ急いでいた。

010

マウラー

ドクター、これから向かうフォルトナー家に、あんたの推理通り双子の妹がいたとしたら、どうするつもりだ?

011

テンマ

とにかく、その一家には危険がせまっています。警察に連絡して警備を頼みます。

012

マウラー

グェッヘッヘッヘッヘッ!そんな根も葉もないあんたの推理で警察が動くかい!?まだ何も事が起きていねえのに!!

013

テンマ

事が起きてからじゃ遅いんだ!!

014

マウラー

事なんか起きやしねぇよ!!双子の妹もいやしねえ!!全部あんたの妄想だ!
・・・いいか、ドクター。なんで俺がこんなふうに言いきるか教えてやるよ。
俺ァ、例の四件の連続中年夫婦殺しのうち、ケルンの現場に取材に行ってるんだよ。

015

テンマ

え?

016

マウラー

ひでえ現場だった・・・・・・・・・。
俺は仕事がら、殺しの現場は何度も見てる。強盗殺人、怨恨殺人、婦女暴行殺人・・・・・・
いろんな目をおおうような現場を見てきた。しかし、あの現場は特別だった・・・・・・
何の目的も感じねえ・・・、なんの欲も恨みも感じねえ・・・、ただ単に人の命を絶っただけって感じだった。
で、長年、記者やって、ああいう現場見りゃすぐわかる。あんたの推理は大はずれだってな。

017

テンマ

018

マウラー

あんた、20歳にもならねえ小僧が犯人だって言ってたが、そんな若僧がなんの感情もなしに殺しができると思うか?
ありゃあ・・・、小僧がしでかしたもんじゃねえ・・・・・・、もっとでかい"何か"だ。

019

テンマ

でかい・・・・・・何かって?

020

マウラー

ケッ、それが問題だ。
しゃくにさわるぜ、実際。長いこと記者やってりゃ、文章表現にゃ自信があるってもんだが・・・・・・
ところがあの件に関しちゃうまい言葉が見つからねえ。どうしても言えってんなら、チンプな表現になるが、ありゃ・・・
ありゃ、悪魔の仕業だ。

021

テンマM

(悪魔・・・・・・!!)

022

マウラー

いや、違うな。ちくしょう、やっぱりうまい言葉が見つからねえ。ただひとつ言えるのは・・・・・・
もし目の前にあの犯人が現れたら・・・、俺は迷わずにぶち殺すね!

023

テンマ

・・・・・・!!

024

マウラー

あんなことをしでかす奴を生かしといたら、ろくなことがねえ。
正義の記者・マウラー様が記者生命をかけて息の根を止めてやる!!
・・・グァッハッハッハッ!!まっ、安心しな。あんたの妄想は大はずれだからよ。

025

N

そして、二人を乗せた車はフォルトナー家に到着した。

026

マウラー

ネッカー通り。16番地・・・・・・ここだぜ。
・・・じゃあ行くぞ。
こんばんは―――!フォルトナーさん、夜分失礼しまーす!

027

N

マウラーが扉をノックし、呼びかける。もし、事が済んだ後だったら・・・。テンマに緊張が走る。
しかしそんな邪推をかき消すように、扉が開く。

028

二ナの父

はい、どなたでしょうか?

029

テンマM

(は―――・・・、間に合った・・・・・・。)

030

マウラー

あ・・・失礼します。私、ハイデルベルク・ポスト新聞社のマウラーと申します。

031

ニナの父

新聞記者さんが何か・・・?

032

マウラー

あの・・・ちょっとお伺いしたいんですが、この記事・・・ほらこの1986年の男のお子さんの捜索願いの件で・・・・・・

033

N

マウラーが説明をしようとした途端、フォルトナー夫妻の目が見開かれた。
そして、逃げるように玄関扉が閉められる。

034

ニナの父

そ・・・その話はもういいんです!!

035

マウラー

うわっと・・・!!

036

テンマ

あ・・・あの!少しお聞かせ願いないでしょうか!!
お宅に娘さんがいませんか!?失踪した男の子の双子の妹さんが!!
お願いです、答えてください!!

037

マウラー

まいったな・・・・・・

038

N

テンマが扉を叩いて必死に訴えかけるそばで、マウラーがつぶやいた。

039

テンマ

え?

040

マウラー

・・・ケーキだよ。
中で誕生パーティのケーキ、用意してやがったぜ・・・!

041

テンマ

なっ!!
9年前、双子を引き取ったんですね!?その妹がまだこちらにいるんですね!?

042

ニナの父

か・・・帰ってください!!

043

N

ドア越しに返事が返ってくる。

044

ニナの父

私達、ニナを本当の娘としてここまで育ててきたんです。
親子三人、平和に暮らしているんです。波風立てないでください。
・・・ほっといてください!!

045

テンマ

あなた方は9年前双子を引き取った。兄のほうは頭に手術のあとが・・・・・・、そして妹は記憶喪失だった。
兄はその後姿をくらました。そうなんですね!?

046

ニナの父

・・・・・・・・・。

047

テンマ

開けてください!娘さん会わせてく・・・!!

048

マウラー

フォルトナーさん、すぐに警察に知らせなくちゃいけない!!
あんた方と娘さんの命が危ないんだよ!!早く!!

049

テンマ

マウラーさん・・・

050

N

そこまで言い終わったところで、硬く閉ざされていた扉が開いた。
揃って出てきた夫妻の顔は、不安で引きつっている。

051

ニナの父

ど・・・・・・どういうことですか?

052

マウラー

とにかく娘さんに会わせてください。

053

ニナの父

む・・・娘は今、出かけてますが・・・・・・

054

テンマ

!?
ど・・・どこに!!

055

ニナの父

ハイデルベルク城に・・・・・・友達と会うとか言って・・・・・・

056

マウラー

ちぃ!!

057

テンマ

マウラーさん、車貸してください!!

058

マウラー

ま・・・待て、警察に連絡してからだ!!

059

テンマ

警察に長々と説明してる時間なんかありません!!早くキーを!!

060

マウラー

・・・わかった。俺がここから電話しとく。

061

テンマ

お願いします!!

062

N

キーを受け取ったテンマは踵を返す。そんなテンマにマウラーがもう一度声をかけた。

063

マウラー

よお、ドクター。

064

テンマ

065

マウラー

気をつけろ!!さっき言ったように、相手はとんでもねえ野郎だ!!
絶対死ぬんじゃねえぞ!!

066

テンマ

マウラーさん・・・・・・

067

マウラー

ちゃんと生きて帰ってくるんだ。そしたらな・・・・・・
タバコ、やめてやるよ。ヤブ医者の言いつけ通りな。

068

テンマ

ハハ・・・・・・。
奥さんも喜びます!

069

N

テンマは改めて車に走っていくと、急発進させた。
残ったマウラーは、警察に連絡する段をつけるため、家の中へ入る。

070

マウラー

さあてと、警察にどう説明するかな。

071

ニナの父

娘は・・・、娘は無事なんですか!?何が起きたんですか!?

072

マウラー

大丈夫ですよ。電話借りますよ。

073

ニナの父

娘に何があったんですか!?教えてください!!

074

マウラー

ああー!落ちつきなさいって!!・・・・・・?

075

N

そう言って、フォルトナー家の電話の受話器をとったマウラーは顔をしかめる。
受話器からなんの音も鳴っていないのだ。
受話器が押さえていた台のボタンも何度か叩いてみるが、反応がない。

076

マウラー

なんてこった・・・・・・

077

ニナの父

078

マウラー

電話線が切られてるぜ。

079

N

悪魔の手は、確実に近づいていた。

---

080

N

他方、ハイデルベルク城―――――

到着したニナは、メールの主が来るのを今か今かと待っていた。

081

ニナM

(約束の時間、とっくに過ぎてる・・・・・・。やっぱりあの呼び出し、いたずらだったのかな。)

082

ニナ

帰ろう。パパ、ママも待ってるし。

083

だめだよ。

084

ニナ

え?

085

N

ニナが、帰るために階段を下りようとした時、後ろから声がかけられる。
ニナの後ろで一人で城の植木の手入れをしていた男が、作業を続けたまま声をかけてきたのだ。
枝を切るヂョキン、ヂョキンという音が不気味に響き渡る。

086

ここで待ってなきゃ、だめだよ。

087

ニナ

あ・・・あなた、誰?

088

頼まれたんだ・・・。あんたがここで待っているようにね・・・。

089

N

振り返った男の目は尋常ではなかった。不審に思ったニナは、無視して歩き出す。

090

待てって言ってるんだ!!待てって言ってるのがわからないの・・・。

091

N

その時、別の方向から新たな声がする。

092

テンマ

アンナ!!

093

ニナ

!?
ア・・・・・・、アンナ・・・・・・?

094

テンマ

アンナ・・・・・・ハァ。いや・・・、ニナ・フォルトナーだね?・・・ハァ

095

ニナ

あ・・・あなたは?

096

テンマ

覚えているかい?・・・ハァ・・・医者の・・・テンマだよ・・・・・・ハァ。

097

N

声の主は先ほど車でかけつけたテンマだった。城内を全力疾走してきたのか、息があがっている。

098

テンマ

無事だった・・・・・・ハァ・・・間に合ったんだね・・・ハァ・・・ハァ・・・アンナ・・・・・・

099

ニナM

(アンナ・・・Dr.テンマ・・・・・・)

100

テンマ

さあ、行こう。家に戻るん・・・

101

ニナ

あ・・・あなたが・・・・・・、白馬の王子様・・・?

102

テンマ

え?

103

N

その時、黙って見ていた男が大声をあげた。

104

なんだ〜、お前は〜〜〜!!

105

テンマ

!?

106

邪魔すんな。邪魔すんなよォ〜・・・
こいつはここで待ってなくちゃいけないんだ。
そうしなきゃ俺、金もらえないんだァ――――!!

107

N

男は叫ぶと同時に、先ほどまで植木の剪定に使っていたハサミを腰だめに構えると、テンマに向かって突進してくる。
テンマは辛うじてその一撃をかわすが、その勢いのまま男に組み伏せられた。

108

あいつは見張ってるだけでいいって言ったのに!!誰も来ないって言ったのに!!ちくしょう!!

109

N

振りかぶったハサミがテンマの顔に落ちてくる。が、寸前で男の手が掴まれ後ろに捻りあげられる。
そのまま腕を極め、男は地面に叩きつけられた。ニナだ。

110

あだだだだ!!

111

ニナ

大丈夫ですか!?

112

テンマ

お・・・驚いたな・・・

113

ニナ

合気道です。それよりも何か縛るものを!!

114

テンマ

あ・・・・・・ああ!!

115

N

ニナが手際よく男の両腕を後ろでまとめ、テンマはそれを自分のネクタイでしっかりと縛る。

116

テンマ

誰に頼まれたんだ!?

117

し・・・知らねえよ。

118

テンマ

そいつはいつここに来ると言ったんだ!?

119

ホントに知らねえんだよ!!た・・・ただ、大切な仕事してから来るって言っただけだ!!

120

テンマ

!!

・・・やっぱり君の家だ・・・!!

121

ニナ

え?

122

テンマ

早く君の家に戻らなくちゃ!!

123

ニナ

ど・・・どういうこと?

124

テンマ

理由なんかあとだ!!早く行くんだ、アンナ!!

125

ニナ

アンナ・・・・・・

126

テンマ

早く!!

127

N

必死の形相のテンマは、半ば強引にニナの腕を引き、走り去っていった。

128

く・・・・・・くそ、ほどけねえ!!

129

N

残された男が、なんとかネクタイを解こうともがいている。
と、男の上にゆっくりと歩いてきた人の影がかぶった。

130

!!
ひ・・・!ひ・・・・・・!!

131

N

ひどく怯える男。男の声はそこで途切れた。

一方、車でフォルトナー家に戻るテンマ達。

132

ニナ

教えてください、Dr.テンマ!!あなたは何者なんですか!?

133

テンマ

・・・・・・・・・。

134

ニナ

それに私はアンナじゃない、ニナです!!

135

テンマ

いや、たしかに私の病院にかつぎこまれた時、君はアンナ!!そして・・・・・・
君の兄さんはヨハンという名前だった・・・・・・!

136

ニナ

兄さん・・・・・・?

137

ニナM

(Dr.テンマ・・・・・・
アンナ・・・・・・
ヨハン・・・・・・!!)

138

N

ニナの頭をめぐる、封印された己の10歳以前の記憶を呼び覚ますキーワード。
自分を翻弄しようとするその3つの名前に、ニナの頭は混乱していた。

CHAPTER.11 失踪記事 | 台本リスト | CHAPTER.13 惨劇の館