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浦沢直樹 |
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15分 |
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82 |
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キャラクター紹介へ |
001 |
N |
ドイツ、ハイデルベルク――――― |
002 |
ニナM |
(Dr.テンマ・・・・・・ アンナ・・・・・・ ヨハン・・・・・・!! ・・・ヨハン!!) |
003 |
N |
頭の中を駆け巡る"未知の記憶"に戸惑うニナ。堂々巡りの考えに悩む彼女を乗せた車は、フォルトナー家に到着した。 |
004 |
テンマ |
フォルトナーさん、マウラーさん、無事でいてくれ!! |
005 |
N |
テンマは停止と同時に、車を飛び出していく。玄関扉前に至ると、ドアを激しく叩きながら叫ぶ。 |
006 |
テンマ |
フォルトナーさん、テンマです!!マウラーさん!! アンナを!・・・いや、ニナを無事に連れて帰りました!! |
007 |
N |
しかし中からは返事がない。そしてテンマはあることに気づいた。 |
008 |
テンマM |
(マウラーさんはここから警察に電話をすると言っていたが・・・。) |
009 |
テンマ |
警察が来た様子がない・・・・・・。まさか・・・・・・ |
010 |
N |
テンマがドアノブに手をかける。なんの抵抗もなく開くドア。並んで入った二人を待っていたのは・・・・・・。 散乱したタバコ。 落ちて割れた、フォルトナー一家の写真が入った写真たて。 床で崩れる、生クリームを飛び散らせたケーキ。 そして・・・、一様に首から血を流す、変わり果てた姿の3人の・・・・・・。 テンマはよろよろと近づき、脈を取る。瞳孔を確認する。 既に肉塊となってしまったとわかっているにもかかわらず、テンマは心臓マッサージを始めた。 |
011 |
テンマ |
(泣きながら)生きて・・・・・・。お願いだ・・・・・・!生き返って・・・・・・! 生き返ってくれェェ!! お願いだ・・・・・・お願いだから・・・・・・。頼むから・・・・・・・・・くぅぅぅぅ!! |
012 |
N |
テンマは手を止める。そして、床のタバコを1本拾うとマウラーの物言わぬ口に差し込む。 |
013 |
テンマ |
マウラーさん・・・・・・あなたの大好きなタバコだ。 マウラーさん!! |
014 |
N |
テンマは子供のようにマウラーの亡骸に泣きつく。 しかし、後ろで黙ってその光景をを見守っていたニナの様子がおかしいことに気づき、後ろを振り返る。 |
015 |
ニナ |
あの時殺したのに・・・・・・・・・ あの時あたしが・・・・・・・・・ あたしが殺したのに・・・・・・ あの時あたしがお兄ちゃん殺したのに――――!!!! |
016 |
N |
今までのニナからは考えられないような大きな声で叫んだ後、崩れるように膝をつく。 テンマはニナの肩をささえると、玄関に向かって歩き始めた。 |
017 |
テンマ |
私が・・・・・・私が生き返らせてしまったんだよ。・・・君のお兄さんを。 電話線が切られている。早く逃げなきゃ・・・・・・君を"奴"が連れ去りにくる!! |
018 |
N |
テンマが玄関扉をあける。そして、思わず声をあげそうになった。 外に体格の良い男が二人、並んで立っていたのだ。 あわてて扉を閉めようとするが、片方の男が靴を挟み込み声をかけてきた。 |
019 |
メスナー刑事 |
大丈夫ですか? |
020 |
テンマ |
え!? |
021 |
ミュラー刑事 |
警察です。通報を受けてまいりました。 |
022 |
N |
二人はテンマに警察手帳を見せる。 |
023 |
メスナー刑事 |
あー、ちょっと失礼。中を見させていただきます。 |
024 |
N |
そう言って中に踏み込んでくる。テンマは何も言えずにそれを見守る。 |
025 |
メスナー刑事 |
なんということだ・・・・・・・・・ |
026 |
ミュラー刑事 |
こりゃひどい・・・・・・ |
027 |
メスナー刑事 |
で・・・、あなた方はご無事ですか?ケガは? |
028 |
テンマ |
いえ・・・特には。 |
029 |
メスナー刑事 |
そうですか、それは良かった。こっちにはまもなく応援が来ます。 現場のほうは彼らに任せて、あなた方には署で詳しい話を伺います。車のほうへ。 |
030 |
ミュラー刑事 |
そちら・・・、被害者の娘さんですか? |
031 |
テンマ |
・・・・・・ええ。 |
032 |
メスナー刑事 |
お気の毒に・・・・・・。 |
033 |
N |
そうして、警察車両は走り出した。 |
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034 |
N |
車内でテンマは、事の次第を簡単に説明した。 |
035 |
メスナー刑事 |
・・・・・・ということは、犯人を目撃していないんですね。 |
036 |
ミュラー刑事 |
それにしても、この平和な街であんなことが起きるなんて・・・・・・ |
037 |
テンマ |
・・・・・・・・・。 |
038 |
ミュラー刑事 |
ところであなた、どこのお国の方? 中国? |
039 |
テンマ |
いえ、日本人です。テンマと申します。 |
040 |
メスナー刑事 |
ああ、日本の方・・・・・・。遠い異国で大変な目に合われましたなあ。 |
041 |
N |
4人を乗せた車が人気のない峠のようなところへ差し掛かる。 街の中心にあるハイデルベルク署に向かうなら、このような場所は通るはずはない。 |
042 |
テンマ |
あ・・・あの・・・・・・どこに向かっているんですか? |
043 |
メスナー刑事 |
警察署ですよ。 |
044 |
ミュラー刑事 |
我々は隣のマンハイム署から来たんです。 |
045 |
テンマM |
(なぜ、わざわざ隣の署まで連れて行くんだ?) |
046 |
メスナー刑事 |
あと・・・15分ほどで到着しますよ。 |
047 |
テンマ |
あ・・・はい。 |
048 |
N |
そこでテンマは、さっきからの刑事たちの言葉を吟味する。そしてある一点で引っかかった。 |
049 |
テンマM |
("通報を受けた"・・・・・・? 通報を受けてやってきたといったな・・・・・・一体誰の通報を受けたんだ?電話線は切られていた。 そしてこの車、サイレンも鳴らさずにやって来た・・・・・・。 それに、現場の保持もせず、第一発見者を応援の到着も待たずに連れ去るようなことをするか・・・? !!まさか・・・・・・この男達・・・・・・!? いや、しかしあの時見せられた警察手帳は本物のように見えたが・・・・・・) |
050 |
N |
考えをめぐらせ、刑事らをチラリと見たテンマは戦慄した。 |
051 |
テンマM |
(血だ・・・!!) |
052 |
N |
助手席に座るメスナー刑事のコートの裾。そこに小さくはあるが赤いシミがはっきりとついていたのだ。 医者のテンマである。見間違うはずはなかった。 テンマの心臓の鼓動が早く、そして大きくなる。 |
053 |
テンマ |
あ・・・あの・・・・・・ |
054 |
N |
テンマが口を開きかけた刹那、誘導灯の真っ赤な光が視界に飛び込んできた。それを振っているのは警官。 どうやら、橋の上で検問が敷かれているようだ。 |
055 |
テンマM |
(け・・・検問だ!!助かった・・・・・・) |
056 |
N |
刑事らは車を停止させた。近づいてきた警官がウィンドウから声をかけてくる。 |
057 |
警官 |
いや〜、すみません。当て逃げ犯を捜していますのでご協力を! って、あれ?メスナー刑事とミュラー刑事じゃないですか。 |
058 |
テンマ |
え!? |
059 |
N |
テンマは驚愕した。この警官は、テンマが殺人者とふんだ男達と親しい様子なのだ。 |
060 |
メスナー刑事 |
やあ、ご苦労様。 |
061 |
警官 |
これから署に戻られるとこですか? |
062 |
テンマM |
(ど・・・どういうことだ・・・・・・!?本物の・・・刑事なのか。) |
063 |
警官 |
へえ――、新しい車ですね。いいっスね―――。 |
064 |
メスナー警部 |
あっという間にオンボロになるよ。 |
065 |
ミュラー警部 |
ハハ、手荒く扱うからね―――。 |
066 |
N |
顔見知りであろう彼らは、楽しそうに喋りあっている。 そこで、テンマは意を決して声をかける。 |
067 |
テンマ |
あ・・・あの!! |
068 |
N |
警官達の注目がテンマに集中する。 |
069 |
テンマ |
あ・・・あの、この子が気分が悪いというので少し外の風に・・・・・・・・・ |
070 |
メスナー刑事 |
あ・・・ああ、どうぞ。 |
071 |
N |
許可を得たテンマはニナを橋の縁まで連れて行き、改めて考えを整理する。 |
072 |
テンマM |
(どういうことなんだ・・・・・・・・・。あれは本物の刑事なのか? しかし、あの血はなんだ・・・・・・。そして誰の通報で来たんだ・・・サイレンも鳴らさずに・・・・・・・・・。 どうすればいい・・・、どうすれば・・・・・・) |
073 |
ミュラー刑事 |
あ――。大丈夫ですか、"Dr."テンマ? |
074 |
N |
なかなか戻ってこないテンマに対して、刑事の片割れが車から呼びかけてくる。 しかしその言葉で、テンマの頭に浮かんだ疑惑は確信へと変わった。 |
075 |
テンマ |
なぜ・・・・・・。なぜ知ってるんです? |
076 |
メスナー刑事 |
ん? |
077 |
ミュラー刑事 |
何か? |
078 |
テンマ |
私は名前は言ったが、医者(ドクター)であることまで言っていない! なぜ知っているんです!! |
079 |
N |
テンマをDr.テンマと呼ぶには、最初からテンマの素性を知っている必要があった。 両刑事の表情が一変する。 テンマはその反応を見るや否や、迷うことなくニナを抱えて橋を飛び降りた。 |
080 |
警官 |
え!?落ちた!! |
081 |
ニナ |
きゃあ!! |
082 |
N |
着水した2人は、川の凄まじい流れに飲まれ一瞬で見えなくなった。 橋から身を乗り出して水面を見る刑事二人は歯噛みしたが、追いかける術があるはずもなかった。 |