CHAPTER.13 惨劇の棺 | 台本リスト | CHAPTER.15 追われる身

MONSTER CHAPTER.14 あなたは悪くない
原作
浦沢直樹
上演時間目安
15分
総セリフ数
90
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001

N

ネッカー河畔―――――

焚き火のそばで、女性が毛布にくるまり座っている。
そこへ、テンマがいっぱいになったビニール袋と紙袋を抱えて近づいてきた。

002

テンマ

近くに雑貨屋があったよ。着替えも手に入った。
あと、パンにソーセージ、チーズ・・・・・・。ポットにあったかいコーヒーも入れてもらった。

003

N

テンマはポットの蓋にコーヒーを注ぐと女性に手渡す。
そこでやっと顔を上げた女性―――ニナの顔は憔悴した様子で、コーヒーを口に含むが咳き込んでしまう。

004

ニナ

ゲホッ!ゴホゴホッ!!

005

テンマ

とにかく着替えといで。体が冷えきってる。

006

N

ニナは近くにあった小屋に入り、着替えを始める。

007

ニナ

たくさん人が死んでた・・・・・・・・・

008

テンマ

・・・・・・!!

009

ニナ

あたしとお兄ちゃんは、二人でそこを歩いていた・・・・・・・・・

010

テンマ

・・・・・・。

011

ニナ

世界に・・・・・・あたしとお兄ちゃん、二人だけみたいだった・・・・・・

012

テンマ

・・・どこだい、そこは・・・。どこだか思い出せないか?

013

ニナ

国境を越えたわ・・・・・・
おじさんとおばさんがはげましてくれて・・・・・・とってもやさしくしてくれた・・・・・・
お兄ちゃんが言ったわ・・・・・・。「いい計画がある」って・・・・・・
それから少しして・・・・・・

おじさんとおばさんは死んじゃった・・・・・・

あたし達にやさしくしてくれる人は、なぜかみんな・・・・・・死んでいったの・・・・・・
でもあの日、それがなぜだかわかった・・・・・・。あの雨の日に。

014

テンマ

リーベルト夫妻の事件だな!?

015

ニナ

お兄ちゃんが撃ったの・・・・・・お兄ちゃんがあの人達を・・・・・・
今までの人達も、みんなお兄ちゃんが殺したのよ!!
だから、あたしは銃をとったの・・・・・・おにいちゃんに狙いをつけた・・・・・・

・・・お兄ちゃん、その時言ったわ・・・・・・笑いながら言ったのよ・・・・・・。
笑いながら言ったのよ・・・・・・「撃ったら、銃を窓の外へ投げ捨てろ」って・・・・・・・・・
「ちゃんと頭を撃て」って・・・・・・!


ちゃんと撃ったのに・・・・・・ちゃんと頭を狙ったのに・・・・・・

016

テンマ

・・・・・・。

017

ニナ

なんで助けたの?
あなたがお兄ちゃんを助けなければ、パパとママは殺されずにすんだのよ――!!
どうして助けたのよォォ――――!!

018

N

着替えを終えて出てきたニナは膝をついて、テンマの目もはばからずに涙を流す。
ひとしきり泣き落ち着くのを待って、テンマは声をかけた。

019

テンマ

ここでじっとしているんだ。私は警察に行く。
ゆうべの刑事たちがもし本物だとすると、ヨハンに通じている人間が、警察にいるということになるが・・・・・・ただこうしているわけにもいかない。
いいかい、ニナ、ヨハンは君を連れ去ろうとしている。追っ手が来たら隠れるんだぞ。

020

ニナ

(泣いて)うっ・・・・・・うっ・・・・・・

021

テンマ

食事して、あたたかいコーヒーを飲んで・・・・・・少し眠るんだ。
人間はそうやって生きてるんだ。
君は生きてるんだ。これからのことを考えるんだ。

022

ニナ

(泣いて)う・・・・・・う・・・・・・

023

テンマ

これからのことを・・・・・・考えるんだ。

024

N

ネッカー川を離れたテンマはひとり、ハイデルベルク警察署に来ていた。前には記者がつめかけている。

025

記者A

・・・・・・で、犯人の手掛かりがないんですか?

026

記者B

これまでドイツ各地で起こった中年夫婦殺人事件との関連は!?

027

記者C

殺されたフォルトナー夫妻と、新聞記者マウラー氏の関係は!?

028

ハイデルベルク署刑事

ですから、当ハイデルベルク署としましては、全力をあげて捜査していますが・・・!
まだ、何も詳しいことは申し上げられません!!

029

記者A

我々の調べたとこだと、フォルトナー夫妻には娘がいるんですが、その娘の行方は?

030

ハイデルベルク署刑事

それも現在捜査中です!!

031

記者B

なぜマウラー記者は、あの家にいたんでしょうか?

032

ハイデルベルク署刑事

だから、それも捜査中だと・・・・・・

033

記者C

そんなの、ハイデルベルク・ポスト紙に聞いたほうが早い!!

034

記者B

どうなんだよ、あんたあそこの記者だろ?マウラーはなんで・・・

035

記者A

そ・・・それがわからないんだ。事件直前まで日本人の男と調べものをしてたらしいんだが・・・・・・

036

記者C

日本人!?そいつが怪しいわね、名前は?

037

記者A

それもわからない。

038

記者C

えー、では。ほぼ同時刻に起きた、ハイデルベルク城での殺人も同一犯の仕業でしょうか!?

039

テンマM

(ハイデルベルク城でニナを襲ったあの男か・・・?
 ネクタイで縛ってたはずだが・・・奴も殺された・・・?)

040

ハイデルベルク署刑事

とにかく、詳しいことは順次発表します!!

041

記者B

で!!城の殺人の被害者の身元は!?

042

記者C

これじゃ、記事にならないわよォ!!

043

N

と、不満そうな記者を残し引っ込もうとする刑事に声がかかった。
テンマとニナを川に飛び込ませた張本人である、メスナー・ミュラー両刑事である。

044

ハイデルベルク署刑事

やあ!!わざわざマンハイム署から応援、ご苦労様。助かりますよ。メスナー刑事。ミュラー刑事。
とりあえず、中で詳しい話を・・・・・・

045

N

そしてミュラー刑事は「何でも言ってくれ。協力する」と言って所轄刑事と握手をする。

046

テンマM

(ゆうべの男達・・・・・・!!)

047

N

正面扉に吸い込まれた二人の刑事を見やり、テンマは逃げるようにハイデルベルク署を離れた。

048

テンマM

(本物だった・・・・・・。あの男達、やはり本物の警官だった・・・・・・!)

049

テンマ

くそっ!どうしたらいいんだ・・・・・・!!

---

050

N

事件の被害者となったマウラーがいた、ハイデルベルク・ポスト新聞社。
大事件が起きてただでさえ忙しいところへ、マウラーの死亡前の行動に関する問い合わせの電話が加わり、オフィスは騒然としていた。
そしてそこへ、また1本の電話がかかってきた。

051

HP記者A

はい、ハイデルベルク・ポスト!!
・・・え!?よく聞こえないよ!!編集部内ゴッタ返してるんだ!!

052

テンマ

昨夜のマウラーさんの殺害事件で、話したいことがあるんです。

053

HP記者A

え!?あなた誰ですか?話って一体・・・
いたずらじゃないでしょうね。今日、その手の電話が何十件も入ってるんですから・・・・・・

054

N(HP記者B)

とにかく、マウラーといっしょにいた日本人をつきとめろ!!そいつが何か知ってる!!

055

HP記者A

あー、ちょっと!静かにしてくださいよ!!電話中なんですから!!
・・・で、もしもし!?それでなんなんですか、話したいことって!!

056

テンマ

重要な証人を連れて行きます。5時にそちらに行きます。警察には絶対に連絡しないでください。

057

HP記者A

本当なんですか?ガセネタじゃないでしょうね。・・・あっ!クソ、切れた・・・・・・。

058

N

公衆電話BOXのテンマは、受話器をハンガーにかけた。

059

テンマM

(警察がダメなら・・・・・・。あの新聞社しかない・・・・・・。
 今、ニナの身の安全を保てるのは、あの新聞社しか・・・・・・・・・)

060

N

ふと、電話機の上に置き忘れてあった新聞紙が目に入る。
そのトップ記事には太った男性の―――マウラーの写真が大きく載っていた。

---

061

N

ハイデルベルク署―――――

城で殺された男の事件の証拠品を保管する鑑識課の部屋に、刑事たちが入ってくる。

062

刑事A

まったく、鑑識課の人間も増強してもらわなきゃ、手が足りませんよ。

063

刑事B

まったくだよ・・・・・・。あれ?

064

N

部屋の中には既に一人、男の姿があった。

065

刑事A

困りますよ。無断で部屋に入られちゃ。

066

刑事B

それに、BKAのあなたは、中年夫婦殺しの件で来てるんでしょ?
こっちには、城で殺された男の資料しかありませんよ。

067

ルンゲ警部

いや失礼、ちょっと気になってね。

068

N

男は振り返って、挨拶をする。
中年夫婦連続殺害事件の担当として、BKA―――独連邦警察から派遣されているルンゲ警部だ。

069

刑事B

ルンゲ警部、あなたの追ってる件とこっちの犯人は同一犯じゃありませんよ。
犯行時刻がほぼ同じなんです。フォルトナー家からこっちの現場まで、20分以上かかりますからね。

070

ルンゲ警部

なるほど。
・・・で、この男。写真を見ると手に縛られた跡があるようだが、それは発見したのかね?

071

刑事A

いえ、被害者が発見された時はもうはずされていましたよ。

072

ルンゲ警部

あ、そう。

073

N

その頃、ハイデルベルク署の前を離れたテンマは、ニナを残してきた小屋の辺りに戻っていた。

074

テンマ

ニナ!!私だ!テンマだ!!・・・・・・ニナ――!!
もう隠れなくても大丈夫だ、ニナ・・・・・・

075

N

小屋をのぞくテンマ。しかし、中にニナの姿はなかった。

076

テンマ

・・・・・・!?
ニナ!!ニナ―――!!

ま・・・・・・まさか!!
ニナ――――!!

077

N

ハイデルベルク城―――――

ルンゲは中年夫婦殺害事件の現場・フォルトナー家ではなく、身元不明の男の殺害場所であるこちらに来ていた。

078

ルンゲM

(男が殺害されたのがあの城の上、そこから一番近い縁はこの正面の壁だ。と、いうことは・・・)

079

N

ひとしきり壁際を歩き回ったルンゲは、ひとつの植え込みの前で立ち止まる。
白手袋をつけると手を突っ込み、あるモノを引き出した。

080

ルンゲ警部

見つけた。

081

N

ルンゲの手の摘まれていたものは、黒地に白のストライプが入ったネクタイだった。

一方テンマは、ゆっくり小屋に入っていく。

082

テンマ

ニナ・・・・・・連れ去られてしまったのか・・・・・・。
一人にするんじゃなかった・・・・・・

083

N

悔やんで、頭を抱えるテンマの視界に、不自然に膨らんだ布が入ってきた。
布を取り去る。そこには先ほどニナに渡したサンドイッチが、手付かずのままで置いてあった。

084

テンマ

これは・・・・・・手紙か?

085

ニナ(手紙)

「Dr.テンマ、あなたは悪くない。あなたは医者として仕事を全うしただけです。あなたは悪くない。
 サンドイッチ食べてください。そして少し眠ってください。
 あなたは生きのびてください。そして一人でも多くの人の命を助けてください。
 ―――――ニナ」

086

N

読み終わったテンマは、サンドイッチを全て腹におさめ、静かに涙を流した。

087

テンマM

(ニナ・・・・・・。君はこれからどうするつもりだ!?
 もう一度あいつを殺すつもりなのか・・・・・・?)

088

N

そして翌日。テンマの姿は、彼の勤めるアイスラー記念病院のあるデュッセルドルフ行きの列車の中にあった。

089

テンマM

(私が・・・・・・
 私が生き返らせてしまったんだ・・・・・・
 私が、あのモンスターを・・・・・・
 生き返らせてしまったんだ・・・・・・)

090

N

車窓から外を眺めて物思うテンマは、心の内でニナが手紙にこめた思いをかみ締めていた。

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