CHAPTER.26 ビー・マイ・ベイビー | 台本リスト | CHAPTER.28 アイシェの友達

MONSTER CHAPTER.27 ゲーデリッツ教授
原作
浦沢直樹
時間
20分
総セリフ数
143
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001
ヘッケル
この辺はガキの頃住んでたからよ、裏の路地まで知りつくしてんだ。
002
N
まだ幼い少年と背の低い小男が、夜の街を連れ立って歩いている。
少年はサッカーボールを、小男は織物の絨毯を大事そうに抱えている。
003
ディーター
うわ――、トルコのサッカー選手だ。ガラタサライのハカン選手のポスターだよ!
004
ヘッケル
おいガキ、よそ見してねぇでちゃんとついてこい!
この先に古物商がある。そこでこの絨毯を金にかえるんだ。
005
ディーター
なんだ、お金ないの?ヘッケルのおじさん・・・・・・
006
ヘッケル
うりせぇな、おまえの晩メシ代を何とかしてやろうってんだ・・・・・・ありがたく思・・・
ありゃ?
007
N
街の奥まで進んできたヘッケルたちの目に写ったもの。
ドネルケバブの店、
008
ヘッケル
ありゃりゃ?
009
N
街行く口ひげを生やしたトルコ人。
010
ヘッケル
うは〜〜〜。
011
ディーター
どうしたの、おじさん?
012
ヘッケル
なんてこった・・・・・・ここら一帯、トルコ人街になっちまってら!
013
N
トルコ人街の絨毯屋。
014
絨毯屋店主
こりゃあ、ニセ物だな。
015
ヘッケル
何言ってんだ、よく見ろよ!この柄、この肌ざわり、どう見ても手織りのシルクだ。
016
絨毯屋店主
こりゃ、化繊だよ。ま、かわいそうだから、100マルクでひきとってやってもいいぜ?
017
ヘッケル
あ―――、これだからいやなんだ。前のドイツ人の店主なら、1万マルクは払ったぜ!
018
絨毯屋店主
そんなら、もって帰りな。
019
ヘッケル
っ!後になって、本物だったからゆずってくれって言ったって知らねぇぞ!!
020
絨毯屋店主
本物ってのはこういうのを言うんだ。
021
N
絨毯屋店主は後ろを向くと、壁に飾ってある一枚の絨毯を指した。
022
絨毯屋店主
ヘレケ産の100%シルクの絨毯だ。近くに寄って見てみな、細かい柄まで手抜きがない・・・
023
ヘッケル
・・・・・・・・・。
024
絨毯屋店主
15万マルクだ。
025
ヘッケル
けっ!どうせニセ物だ!!この絨毯が本物に見えねえような観察眼じゃな!!
帰るぞ、ディーター。
026
ディーター
あ、待ってよおじさん。
ねえ・・・・・・おなかすいたよ・・・・・・
027
ヘッケル
本物だ・・・・・・
028
ディーター
え?
029
ヘッケル
あの絨毯・・・本物だ・・・・・・。
百年前、オスマントルコ後期の、正真正銘の上物だ!!
あれが15万マルクだって?バカ親父め!!出すとこに出しゃあ、80万マルクの代物だぞ!
030
ディーター
ねえ、なんか食べようよ・・・
031
ヘッケル
うるせえ!あの絨毯を俺の物にすれば、高い料理が食い放題だ!!
032
ディーター
物にするって、どうやって?
033
ヘッケル
へっへっへ・・・まかせときな。
034
ディーター
じー・・・・・・・・・。
035
ヘッケル
?な・・・・・・なんだよ、その目は!?
036
ディーター
どろぼうだ!!
037
ヘッケル
わ・・・・・・バカ!!こ・・・声がでかいよ、このガキ!!
---
 
 
038
N
酒場キャンディー前―――――
近くの路地の影から入り口の様子を伺う男の姿がある。
ここに目的の女性ニナ・フォルトナーがいると聞いてやってきた、テンマだった。
慎重に観察し、頃合いだとふんだテンマは路地から飛び出そうとする。
が、そのテンマのコートを細い腕がつかみ引き止めた。
039
テンマ
!!
040
アイシェ
ちょっと、どうしようっていうのさ。
041
N
テンマが慌てて振り返ると、ひと目で売春婦だとわかるいでたちの女性が鋭い目つきでテンマを見ていた。
042
テンマ
悪いが、客ならほかをあたってくれ。
043
アイシェ
そうじゃないよ。
あんたみたいな黄色い肌の東洋人がこのキャンディーなんて店にのこのこ入っていったら、殺されちまうかもしれないんだよ。
ここは、右翼の巣なんだからね!
044
テンマ
・・・・・・・・・。
君こそトルコ人だろ?こんなところで商売してて大丈夫なのか?
045
アイシェ
バカ言ってんじゃないよ。こんな路地裏のゴミ捨て場で商売するかい!!
・・・あたしの友達が、ここの連中に連れ去られちまったんだよ。
046
テンマ
え!?
047
アイシェ
なんかその子、連中の知られちゃまずい秘密を知っちまってさ・・・
048
テンマ
秘密?
049
アイシェ
なんだか知らないよ。でも早いとこ助けてやらなきゃ、今頃、どんな目にあってるか・・・・・・
050
テンマ
私も、知り合いの女性がこの中にいるんだ。助け出さなきゃならない・・・・・・
051
アイシェ
どんな子だい?もしかして、ブロンドでロングヘアの子・・・・・・?
052
テンマ
さあ・・・・・・今はどんな髪形をしてるか・・・・・・
053
アイシェ
もしその子なら、さっき車で連れていかれたよ。
054
テンマ
どこに!?
055
アイシェ
知らないよ。けど"赤ん坊"もいっしょだったから、やつの屋敷かもね。
056
テンマ
"赤ん坊"・・・・・・
057
N
この酒場のことを語ったミュラーという元刑事の言葉が思い出された。
「"赤ん坊"はこう言ってたよ。この国は第二のヒトラーが生まれれば、もう大丈夫だって・・・・・・。あの女は、その餌なんだ。」
058
テンマ
その車の車種は?色は!?
059
アイシェ
ま、真っ赤なでかいベンツだよ。
060
テンマ
よし!とにかくその車を見つけて、あとを追うしかないな!
061
アイシェ
あ・・・・・・あたしの友達も、いっしょに助けてよ!!
頼むよ、あの子、家にまだちっちゃな子供がいるんだ。あの子に何かあったら・・・・・・!
062
テンマ
・・・・・・・・・。
063
アイシェ
頼むよ!
064
N
助けてやりたい。しかし、自分の目的すら達せられる保証もない状態で請け負ってしまっていいものか。
逡巡するテンマだったが、突如その思考は途切れる。
通りを暴走してきた車によってその体が宙を舞った。
065
アイシェ
ひ・・・・・・

ひ―――――ッ!!!
066
N
一目散に逃げ出す売春婦。
テンマをはねた車はすぐに停まり、その"赤い大きなベンツ"から降りてきた小さな男がテンマに歩み寄ってきた。
067
赤ん坊
死んだかぁ?・・・(蹴飛ばす)ふんっ!
068
テンマ
う・・・
079
赤ん坊
な――んだ、死んでないや!!
---
 
 
070
N
一方、テンマの捜し求める二ナ・フォルトナーの姿は郊外の邸宅にあった。
071
部下
どうぞこちらです。
072
ニナ
・・・・・・・・・。
073
部下
その前に、コートの中の銃。お預かりしておきましょう。

・・・はい。ではどうぞ、お入りください。
074
N
ニナがコートからワルサーPPKを出し手渡すと、男は部屋の扉を開いた。
中には大きく長い食卓があり、サイドに3脚ずつ、両端に1脚ずつ椅子が置いてあった。
その一番奥の席には、齢七十に達しようかという老人が座りメロンを食べている。
075
ゲーデルリッツ
好きな席にかけて・・・
076
N
その老人はニナのほうを見ずにそういった。
部屋にはメロンを切り分けるナイフとフォークの音のみが響く。
ニナは、老人に向かい合う一番端の席に座った。
077
ゲーデルリッツ
"赤ん坊"が連れてきたという娘は君かね。顔を見せてごらん。
078
ニナ
・・・・・・・・・。
079
ゲーデリッツ
なかなか、美しい子じゃないか・・・・・・
さすが、ヨハンの双子の妹だ。
080
N
老人は、懐から取り出した写真とニナを見比べてそう言った。
そして、自分のタイピンを重し代わりに写真につけると、それをニナに向けて投げた。
081
ゲーデリッツ
私は、ゲーデリッツ教授。その、ヨハンといっしょに写っているのはヴォルフ将軍だ・・・・・・
他に二人・・・あわせて四人で、私たちは組織を統括している。

果物は?召し上がるかね?
082
ニナ
兄に・・・・・・ヨハンに、会わせて下さい!
083
ゲーデリッツ
会えるとも・・・君がここにいるとわかれば、彼は必ず現れる。
彼は君が必要なんだ。
084
ニナ
あなた方もヨハンの居所を知らないのね。
085
ゲーデリッツ
私達は、彼を必要としている。
086
N
ゲーデリッツは洋ナシを4つ、密集した四角に並べた。
087
ゲーデリッツ
我々の上に、座ってもらうためにね。
088
N
そして、大きなドリアンをその上―――頂点に乗せた。
089
ゲーデリッツ
ヒトラーがなぜ、あれほどの力を得たか知っているかね?
彼は頭のいい実務家でね。三つのポイントを知っていた。
銀行を抑え、軍需産業をとりこみ、そして軍隊を掌握した・・・・・・
090
ニナ
・・・・・・・・・。
091
ゲーデリッツ
今、ヨハンはその三つのどこかに潜んでいる。どうだい?この推理、正しいと思わないかね?
092
ニナ
あなた方は、ヨハンをどうしようと・・・・・・
093
ゲーデリッツ
ただし、ヒトラーがそれを成し得たのは、彼のカリスマ性のお陰だ・・・・・・

ヨハンはどうだね?
ヒトラー以上だとは思わないかね?
094
N
メロンをひとつ口に運んだゲーデリッツは淡々と続ける。
095
ゲーデリッツ
ヒトラーは、美術学校の受験に失敗し、軍隊でも伍長どまりだった・・・・・・
彼がカリスマを現したのは、三十歳をすぎてからのことだ。

ところが、ヨハンはどうだね?彼には子供の頃から、怪物的なカリスマがあった。子供のときからのカリスマ・・・・・・まるでイエス・キリストのようじゃないか。 しかし忘れてならないのは、そのイエスの才能を最初に見抜いた東方の三博士とバプテスマのヨハネという素晴らしい四人の存在だ。
我々四人も、子供の頃からヨハンの才能に注目していたんだよ。素晴らしいだろ?

本当に、果物はいらないのかね?
096
ニナ
私は、どうすればいいの?
097
ゲーデリッツ
ここに、しばらくいてほしい・・・・・・ヨハンが、君に会いに現れるまでね。
・・・逃げるようなマネはしないでほしい・・・・・・君はもう一歩を踏み込んでしまったんだよ・・・・・・
098
ニナ
心配要らないわ。私が望んで来たんだから。
ここで、ヨハンを待つわ。
099
ゲーデリッツ
けっこう・・・・・・さ、果物を召し上がれ。
---
 
 
100
N
意識を取り戻したテンマ。全速の車にはねられたダメージは大きく、まともに目を開けるのも辛い。
地下室で裸電球がひとつしかないため薄暗く、自分はといえば固いイスに縛り付けられている。
自分を轢いた張本人、"赤ん坊"の顔が目の前で大写しになる。
101
テンマ
う・・・・・・うう・・・・・・く・・・・・・・・・
102
赤ん坊
気がついたようでちゅね・・・・・・・・
103
テンマ
(痛みに呻いて)う・・・・・・!
104
赤ん坊
心配いりまちぇんよぉ、骨が折れたりはしてまちぇんからね―――。

この辺りで、何をやってたんでちゅか?テンマ先生(ちぇんちぇい)・・・・・・
105
テンマ
な・・・・・・なぜ、私のことを知っている?
106
赤ん坊
こちらが質問してるんでちゅ。あなたはそれに、答えればいいの!

何をやろうとしているんでちゅか?
ヨハンを捜し出して、どうしようというんでちゅか?
107
テンマ
・・・ニナはどこにいる?
108
N
問いかけをやめようとしないテンマ。
赤ん坊は手に持ったビリヤードのキューを高く掲げた。
109
赤ん坊
質問しているのは、こっちだと言ってるでちょ!!
110
テンマ
ぐは!!
111
N
キューの先端がテンマの額をヒットする。
112
テンマ
うぅ・・・・・・ニナを、どうする気だ?
113
赤ん坊
質問するなといってるだろうが!!
114
N
今度は横薙ぎに一撃。体を固定され勢いを逃がすことも出来ないテンマは、ただ耐える。
"赤ん坊"は、ハンカチでキューの先を磨いている。
115
赤ん坊
ニナは大事なお客様だ。おまえのようなゴミとは違うんだ。
116
テンマ
じゃあ、無事なんだな?
117
赤ん坊
今はね・・・・・・でも、あの子はとっても危険・・・
あんなにかわいい顔をしているのに・・・・・・・ヨハンを殺そうとするなんて・・・・・・・
そういう人間は、じきに処分しなくちゃあ・・・・・・
118
テンマ
ニナは、ヨハンを呼び出すまでの道具というわけか!?
お前たちは何者だ!?何をしようと・・・・・・
119
赤ん坊
また質問だ!!
おまえのような異人種がぁ!
私たちに質問する資格なんかない!!
そういう生意気な態度をとるからぁ!
街ごと焼き払われることになるんだ!!
120
テンマ
ぐふぅ!・・・・ま、街ごと・・・・・・!?
121
赤ん坊
そう・・・・・・明日の晩は、夜空がきれいに染まるんでちゅ。

明日の夜は、ヨハンを迎える歓迎パーティでちゅ!
この世の中には、我々のような優秀な民族だけ生き残ればいいんでちゅ。
あとは、燃えてしまえばいいんでちゅ!
---
 
 
122
N
ゲーデリッツとの顔合わせを終え、ニナは用意された部屋のベッドに座っていた。
123
ニナ
ここにいれば・・・・・・ヨハンに合える・・・・・・
124
N
そう自問して、不意にスカートをたくし上げる。
あらわになった太ももに、COP357―――隠し持つのに適した四連装の小型拳銃がテープで巻きつけてあるのを確認するニナ。
その時、金属をたたくような音がごく小さいながら、確実に聞こえた。
125
ニナ


・・・洗面所・・・・・・?
126
N
音の元を追って洗面所に入る。さらにたどると、二ナの耳は洗面台の排水溝から出るか細い声を拾った。
127
娼婦
助けて・・・・・・
128
ニナ
女性の声・・・・・・
129
娼婦
助けてぇ・・・・・・
130
ニナ
あ・・・・・・あなた、誰?
131
娼婦
た・・・助けて・・・・・・
132
ニナ
あなた、どこにいるの?
133
娼婦
三階・・・・・・
134
ニナ
三階・・・・・・。この上ね・・・
あなた・・・・・・片言のドイツ語ね、どこの国の人?
135
娼婦
トルコ人・・・・・・

私・・・・・・殺される・・・。ここから、逃げ出さないと・・・・・・
136
ニナ
ここの連中に、監禁されているのね・・・・・・?
137
娼婦
助けて・・・・・・
138
ニナ
・・・・・・・・・。
で・・・でも、あたしはどうしてもここにいなくちゃいけないの・・・・・・
139
娼婦
お願い、助けて!!早く知らせないと、私の坊やも死んでしまう・・・
140
ニナ
え・・・・・・
141
娼婦
私・・・・・・奴らの話・・・・・・聞いてしまった・・・
奴ら、明日の晩火をつける・・・。私達の、トルコ人街を、焼き払おうとしている!
142
ニナ
!!
143
N
赤ん坊の組織が企てる、トルコ人街を焼き払う計画。
今それを知る者は、テンマとニナ。この二人をおいて他にはいない。

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